■「分析と統合」の初歩

ここでは写真の「観察」を例に取り、情報の「破壊と創造」、すなわち「分析と統合」がどのように行われるかを考えます。とりあえず次の写真から、どんな情報を「分析と統合」によって引き出せるかを見てゆきましょう。



写真から入ってきた情報に対して最初に行われるのが要素ごとに分解する「分析」です。

これは「破壊と創造」の「破壊」部分に当たるもので、この場合は読み取れる情報を、一つ一つ個別に箇条書きにして行きます。とりあえず気が付いた事は全て書き出す事にしておけば、よほど不注意な人間でない限り、結果に大きな個人差は付かないと考えていいでしょう。ざっとやってみると、

●分析

〇天気は晴天である
〇車線は一つのみの細い道路だ
〇歩道付き道路である
〇横断歩道が見える
〇歩行者の影は極めて短い
〇街路樹の影は左手に落ちている
〇歩行者は半袖で日傘をさしてる人もいる
〇左手には居酒屋らしい店舗の看板が見える
〇車道はあまり広くないのにわざわざ左右に歩道を造っている
〇交通標識が全て裏側なのは、画面右手に一方通行の標識があることで説明できる
〇道路横に見られる街灯はかなり洒落たものになっている
〇街路樹も多い
〇右側のビルの窓にはフィットネスクラブのポスターらしいものが見える
〇その奥の看板には宝飾の字も見える
〇歩道にはベンチらしいものも見える
〇道路上にスポーツ選手のモノらしい垂れ幕が見える 
〇画面内に見えている歩行者は4人である
〇居酒屋の看板には電話番号と、馬らしき絵が見える

といった辺りになるでしょう。
ここまでならちょっと知恵があれば誰でもできる、というのがボイドの主張でした。が、ここから必要な情報を引き出すには「統合」の作業が必要になってくるのです。ほとんどの人間はやらない、あるいは出来ないと彼が述べた「統合」とはどんな作業になるのかを、次に見ましょう。

■統合の始まり

統合の作業では各個人の「知性=思考力」「知識」そして「直観」によって、結果が大きく異るのに注意しながら見てください。とりあえず最初にやるべきことは、「分析」から出てきた情報の整理です。まずは同じような項目ごとにまとめてみましょう。

●統合‐1 分析内容の整理

1,道路に関する事柄

〇歩道付き道路である
〇横断歩道が見える
〇車道はあまり広くないのにわざわざ左右に歩道を造っている
〇交通標識が全て裏側なのは、画面右手に一方通行の標識があることで説明できる
〇道路横に見られる街灯はかなり洒落たものになっている
〇街路樹も多い
〇歩道にはベンチらしいものも見える
〇車線は一つのみの細い道路だ

2.歩行者に関する事柄

〇歩行者は半袖で日傘をさしてる人もいる
〇画面内に見えている歩行者は4人である

3.天候、太陽に関する事柄

〇天気は晴天である
〇歩行者の影は極めて短い
〇街路樹の影は左手に落ちている

4.建物、看板などに関する事柄

〇右側のビルの窓にはフィットネスクラブのポスターらしいものが見える
〇その奥の看板には宝飾の字も見える
〇道路上にスポーツ選手のモノらしい垂れ幕が見える 
〇左手には居酒屋らしい店舗の看板が見える
〇居酒屋の看板には電話番号と、馬らしき絵が見える

さて、このように項目ごとにまとめたら、いよいよ情報の「統合」に取り掛かるのですが、まずは不要な情報の取捨選択を行いましょう。その後、そこから読み取れる内容を検討する事になります。とりあえず内容が確認しやすいよう、再度同じ写真を載せておきましょう。



●統合‐2 情報の取捨選択と読み取り

1.道路に関する事柄

〇歩道付き道路である
〇横断歩道が見える ▲不要
〇車道はあまり広くないのにわざわざ左右に歩道を造っている
〇交通標識が全て裏側なのは、画面右手に一方通行の標識があることで説明できる ▲不要
〇道路横に見られる街灯はかなり洒落たものになっている
〇街路樹も多い
〇歩道にはベンチらしいものも見える
〇車線は一つのみの細い道路だ ▲不要

→以上から「歩行者に配慮した道路であり街路樹、街灯など景観にも配慮している点から都市中心部と思われる

2.歩行者に関する事柄

〇歩行者は半袖で日傘をさしてる人もいる
〇画面内に見えている歩行者は4人である ▲不要

→以上から「夏、少なくとも梅雨明けから9月までの期間の撮影と思われる

3.天候、太陽に関する事柄

〇天気は晴天である ▲不要
〇歩行者の影は極めて短い
〇街路樹の影は左手に落ちている

→以上から「影の短さから夏場である。ここまで影が短いのは太陽の南中時刻前後しかなく午前11時から午後1時前後までの撮影と思われる」

ただし、この点はさらなる“気づき”でより深い情報を引き出せるかどうかが問われる項目となってます。
すなわち「〇街路樹の影は左手に落ちている」という分析にまで注目するか否かです。そして、そこから情報を引き出すには一定の知識を持つかで差が付きます。

ここで必要な知識は太陽の南中高度は日本付近だと夏至でも78度までという点です。すなわち夏場でも太陽は天球の頂点より常に南側にあります。よって街路樹の影が左に大きく出来ている事から太陽は画面の右手上空にある、すなわちそちらが南であり、当然、画面の左側が北になります。左が北、右が南なのですから、

「撮影者は東に向かって歩きながらこの写真を撮っている」

という事まで読み取れるわけです。 この辺りから徐々に各自の知識と知性によって「統合」の内容に差が付き始めます。とりあえず、話を続けましょう。

4.建物、看板などに関する事柄

〇右側のビルの窓にはフィットネスクラブのポスターらしいものが見える 
〇その奥の看板には宝飾の字も見える
〇道路上にスポーツ選手のモノらしい垂れ幕が見える ▲不要
〇左手には居酒屋らしい店舗の看板が見える
〇居酒屋の看板には電話番号と、馬らしき絵が見える

→以上から「日本での撮影であり、居酒屋の看板にある電話の市外局番045から、ここは横浜である

という事までは簡単に判ります。

が、この項目にもさらなる情報が得られるかどうかの分かれ目となる点があります。
それが居酒屋の看板にある「馬らしき絵」で、これは横浜にある馬車道通りのシンボルマークなのです。この点を知っていれば、この絵を見ただけで「横浜の馬車道の商店街だ」と気が付く事ができます。もし知らなくても、直観的にわざわざ看板に入れる以上は何かあると判断、横浜、馬の絵、などでネットを検索すればすぐにこの点は判ります。よって知識が無くても直観でカバーできる、という部分でもありますね。

■統合の総仕上げ

さて、以上の情報を「統合」して得られる情報は、以下の二段階に分かれるのは理解できると思います。
まず特に深い知識も直観もなければ

「夏場の昼時、横浜の中心部にある通りの写真である」

で終わりです。まあ、これでも最低限の情報は写真から引き出してるのですが、やはりそこまででしかない、という事になります。
が、先に見た「さらなる気づき」が加わると、

「夏場の昼時、横浜の馬車道通りを東に向かっている時に撮られた写真である」

という所まで絞り込めるのです。そして、そこまで判ったなら、馬車道通りの東に何かあるのか調べた上で、

「撮影者は夕撃旅団管理人である可能性が高い。この先には日本丸の展示があるから、乗り物スキーの奴はそこに向かったと思われる」

という推論まで辿り着く事も可能になります。よってこれが撮影直後にサイトに投稿されたものだったら、先回りしてバナナの皮を置く、等の恐るべき待ち伏せ攻撃まで可能になるのです。

といった辺りが「破壊と創造」を情報解析に利用した「分析と統合」の基本的なやり方となります。

さて、これで実戦に必要なOODAループの運用知識は全てそろいました。よって次回からは実例を上げながら、少しずつより深い所まで見て行きましょう。


BACK