■敵OODAループへの干渉による高速化

ここまでは自分のOODAループを高速化して敵より速く「行動」段階に入り、優位に立つ過程を見て来ました。

ここでOODAループの高速化とは相対的な「テンポ」の速さの問題なのに注意してください。光速で動けても相手が光速より速く動けたら負けですし、逆に亀より遅くても、相手より速ければ何の問題ありません。とにかく敵より速くループを回す事が重要なのです。ならば敵のOODAループに干渉し、その速度を相対的に低下させれば常に先に「行動」に至る事が可能なはず、という考えが出て来ます。これが「OODAループの攻撃的高速化」です。今回はこの点を見て行きます。

「攻撃的高速化」に置いては敵のOODAループに割り込み速度を低下させる、さらに最終的にはそのループを止めてしまう事を目指します。そこから指揮系統の麻痺とパニックを引き起こし、最終的に無秩序化した敵集団を蹂躙する、あるいは戦わずして降伏させるまでを狙うのです。これこそがボイドが講演で繰り返し述べている「ヤツのループに割り込め(Get inside his OODA loop)」であり、ボイドの戦闘理論における核心の一つとなります。

まずはどうやって相手のループに干渉するのか、という辺りから見てゆきましょう。

■観察段階を狙え
ここで再度、基本的なOODAループの流れを確認して置きます。

それぞれの段階は個人か組織の内部で処理されており、超能力者か神様でもない限り外部から割り込むのは困難です。ただし最初の「観察」段階だけは例外なのに注意してください。ここでは「外部」の「観測」が行われるため、その干渉を許してしまいます。よって敵のOODAループへの干渉では「観測」段階を狙うわけです。その手段としては「秘匿」、「欺瞞」、そして「情報の飽和」が使われる事になります。

○秘匿 

こちらの行動を隠して敵に一切観察させない負の干渉です。敵は何も気が付かずOODAループを回す前の段階に留まり続け、こちらが「行動」段階に移るその瞬間まで完全に無防備な状態に置かれます。ループの回転が遅いどころの話では無いわけです。その結果、何の準備もできないままに奇襲を受ける事になり、その戦闘はほぼ一方的な蹂躙になるでしょう。

真珠湾攻撃の時、航行する船舶が少ないアリューシャン列島からの南下ルートを選択して全く気付かれないままハワイを襲った連合艦隊の行動などがこれに当たります。

○欺瞞

本来の行動目的とは相反する情報を相手に与えて誤解させ、真の目的を悟らせないさせない干渉です。主力部隊とは逆方向に目立つ囮を放ち、敵がそちらに気を取られるようにする、といったものですね。

観察された以上、相手のOODAループは回転を始めますが、誤った情報を得た敵は決して「正解行動」にたどり着けません。「正解行動」に到達できないのでは意味がなく、事実上、ループが停止したのと同じ事になります。これは西方電撃戦におけるドイツ軍が良い例でしょう。連合軍に対し北のB軍集団が主力部隊だと誤解させ、包囲網の中におびき出したのです。その後、本当の主力部隊、A軍集団の機甲部隊が南のアルデンヌ地帯を突破、一気に連合軍主力の背後をついて包囲殲滅してしまいました。そしてこれについてはまた後で詳しく見ます。

この「欺瞞」はスポーツなどでも、ごく普通に行われています。
野球でバントの構えを見せた後、守備が前進して来たら突然ヒットエンドランに切り替える、走者が一塁に戻るふりをしながら盗塁に走る、なども典型的な欺瞞ですね。サッカーでゴール前のボールに対し複数の選手がオトリとして走り込むのも同様です。 ボクシングなどの格闘技におけるフェイントを混ぜた戦い方も欺瞞の一種です。欺瞞が無い対戦型のスポーツはほぼ無いでしょう。

「秘匿」と「欺瞞」を比較した場合、全く相手に何も準備させないまま蹂躙してしまえる秘匿がより理想的となります。この場合、OODAループの回転が遅いとかのレベルではなく、全く回って無いのですから圧倒的な展開になります。ただし現実には相手がよほど油断して無いと実現は困難で、通常は欺瞞を主に仕掛けて行く事になります。

残るもう一つの手段、「飽和」はこれら二つとはやや異なる、より攻撃的な性質を持ちます。この点については次のページで詳しく見ましょう。


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