■観察の「量」を減らして高速化

ループの高速化のために観測の「量」を減らす、というのは、より少ない情報量で「観察」段階を終え、次の「観察への適応」から「判断」、そして最後の「行動」に至る事を意味します。この結果、相手より速く行動に移る事ができ、すなわち勝てる可能性が高くなるのです(正しい行動に至るかは個人の能力によるので必ず勝てるとは断言できない。それでも同程度の能力の敵味方がぶつかるなら間違いなく勝つ)。

最初は運動会の借りもの競争で考えて見ましょう。これは封筒の中の指示をいかに早く把握するかが焦点になって来ます。
例えば「あなたが借りるのは校長のカツラです。健闘を祈ります。がんばって奪い取れ」といった文面が入っていた場合「校長のカツラ」の段階まで読んで走り出すのと、律儀に最後まで読んでから「よしがんばろう」と決意して走り出すのとでは、明らかに前者が有利です。すなわち最低限の情報を得たら、すぐに観察を打ち切ってすぐに行動に移るべきだ、という事になります。

別の例として、廃墟の町に入った敵味方の歩兵小隊を考えます。
ここで片方は周囲に友軍が居ない事を知っている、対して相手は友軍の所在を正確に把握していない、とします。この場合、周囲に友軍は居ないと知ってる小隊は人影、あるいは足音を「観察」しただけで撃ちまくれます。対して友軍の有無に確証がない方は人影を見ても、それが敵か味方か確認できるまで下手に撃てません。そして敵味方の確認のために「観察」している間に撃たれてハチの巣にされて終わりとなる可能性は高いのです。

このように同じ内容を観察しても、より少ない情報量で先に動いた方が有利になります。先に「行動」段階に入れ優位に立てるからです。これが「観察」の減量であり、それは「観察」の時間縮小を意味します。



第二次大戦までの艦隊砲撃戦は、まず数発の着弾観測のための砲撃を行い、その水柱の位置、すなわち敵艦と着弾位置の差を見てから砲の角度調整を行って最終的に命中弾を得る、というものでした。よってよほどの奇跡が無い限り、最初の命中弾を得るまでに最低でも数回の砲撃が必要です。これすなわち、先に撃ち始めた方が優位に立てるのです。

なので先に目標を発見する、というのは大前提でしたが、同時に20q以上の距離で撃ち合う巡洋艦以上の砲撃戦では、水平線上にかすかに見える艦影か敵か味方かをキチンと確認する必要がありました。味方の艦を砲撃して命中させてしまったら最悪ですし、さらに相手が反撃して来て、こちらにまで被害が出たら、敵は何もしないまま大戦果を挙げたに等しいことになってしまいます。

このため各国の海軍では敵味方判別を素早く行わせるため、乗組員に敵艦の形状を暗記させる、それが無理な場合に備えすぐに確認できる手引書を持たせておく、という事をやってました。
写真は米軍が日本の艦艇識別用に制作したハンドブック「ONI 41-42」の1944年12月版です。開いてるのは日本の金剛型のページで、かなり精密な模型を使ってあらゆる角度からの写真を載せ、発見した艦が敵か味方かを素早く判断できるようにしています。

 

航空攻撃でも、敵味方の識別は重要ですから、上から見た写真も載っています。
友軍艦を攻撃するわけにはいきませんが、かと言ってぐずぐずしてると対空砲火の弾幕を張られて、雨雲の下などに逃げられてしまう可能性があり、やはり素早い識別が重要なのです。

この辺りの懇切丁寧なハンドブックを見ると「とにかく早く識別する」という事をアメリカ海軍が重視していたことが判り、それは「観察」の高速化の必要性を理解していた、という事でもあります。ついでにこういったハンドブックを造らせると第二次世界大戦期のアメリカはホントに良い仕事をするんですよね。

そしてこれはOODAループの発見以前から、「観測」をいかに素早く終わらせるかという重要性は既に認識されていた、という事でもあります。OODAループは本来、人間の行動を図式化しただけですから、当然と言えば当然ですけども。

■百人一首カルタにおける「観察」の減量

では、前ページまでに見てきた百人一首カルタの場合、どうなのかを考えましょう。まずは現段階でもっとも優位に立てるループ3を確認します。




このループにおける「観察」は読み手の歌を聞く、でした。
これを短縮する方法としては、歌を最後まで聞かずに「観察」を終える、が考えられます。
そもそも下の句では「き」「さ」「つ」「と」「ぬ」「ね」の六文字から始まる歌は一つしか存在しないので、この音を聞いた瞬間に即座に「観察」を終了、札を取りに行く事ができます(「お」と「を」もそれぞれ一つだが、「お」と「を」の発音で識別が難しいので除く)。

ただし「いまひとたびの」と七文字まで同じ歌が一つ、「わがころもで」、「みをつくして」と六文字が同じ歌も二つあり、これらは少なくとも半分近くまで聞かないとどの札か判断がつきません。が、それでも十四文字聞くよりは速いのです。平均では三文字程度で特定できるはずで、これが「観察」の減量のもっとも初歩的な対策となります。

■カルタの「観測」における究極減量

が、最初に説明したように読み手は上の句から、すなわち歌全部を読み上げます。取り札の下の句にある最初の数字文字で判断する戦法では、上の句の五、七、五、すなわち17文字が読み終わるまで何もできないのです。それは極めて無駄に思えます。

では、どうするか。
答えは簡単、取り札の下の句だけでなく、上の句の内容も覚えてしまえ、すなわち百人一首の歌を全部を覚えてしまえ、という事になります。その上で、場にある取り札の位置を記憶せよ、という事です。当然、百人一首の暗記はゲームが始まる以前に終わらせてないと無意味ですから、これもループの中の行動には含まれません。そしてゲーム前には場にある取り札の位置も覚えて置く、という事になります。

ちなみに百人一首の上の句では五文字以上同じ読み出しの歌はないので(「あさぼらけ」「わたのはら」の二つ、計四歌のみ)、六文字目まで聞けば、全ての歌が識別できます。さらに「さ」「す」「せ」「ふ」「ほ」「め」「む」の字から始まる歌などは、一つの歌しかありませんから、速攻で「観察」を打ち切り、「観察内容の適応」、「判断」、「行動」にまで至って札を取りに行けます。観察をたった一文字で打ち切れるならこれ以上の有利はありません。

よって、これを基に新たなループを組み上げればより高速化が可能になるわけです。これをループ4としましょう。



このループ4では下の句に入る前に観測を終えて行動にまで至ってしまうのですから、下の句を聞いてから始まるループ3ではどうやっても勝つ方法がありません。最後の一枚にならない限り、「観察」から先に進めないためずっと「行動」は不可能で、ゲーム中は何もできないまま、相手が札を取り続けるのをぼんやり眺めてる他、やる事がありません。これが高速ループの威力、「ずっとオレのターン」の完成形なのです。

■ずっと俺のターンの完成

このように相手より高速化された「テンポ」のループを組み上げてしまえば、チョンボを連発でもしない限り、絶対に負けません。それどころか、相手に何もさせないままタコ殴りできる態が出現するのです。
こうなったら相手の対策はただ一つ、ループ4を使う相手に対抗するには自分もループ4を回すしか手はありません。もしループ4を組み上げられなかったら、後はゲーム終了まで何もせずに負けるのを待つだけ、という屈辱的な状況に置かれる事になります。

歌を百も覚えて、さらに場にある札百枚を全て覚えるなんて無茶だと思うかもしれませんが、これを現実にやってる人はいくらでも居るので、勝負に出るなら覚えるしかありませぬ(厳密には歌全部を覚えず、上の句最大六文字までと下の句の三文字までを覚えるだけでもいい)。それ以外の方法では同レベルの土俵にすら立てません。

これがOODAループの高速化の戦いの一例で、敵がより洗練されて高速なループを組み上げて回し始めた場合、自分も同じレベルの高速ループを組んで回さない限り必ず負けます。

そのための高速ループを組み上げる基本は「観測」段階をいかに効率よく片付けるか、が重要になって来る、というのはここまでに見た通りです。ただしこれが最終究極系の高速ループか、というとまだ上があります。それが究極のループ回転、ループの飛ばし、ショートカットを取り入れた高速ループの組み上げとなります。その辺りは、また次回。
とりあえず今回はここまで。


BACK