■だれでも簡単に戦艦が撃沈できます



と言う感じで、当初はAスコープが多かった米海軍の射撃管制レーダーだが、
徐々にBスコープに切り替わり、
実戦投入された段階では、ほとんどがBスコープだったと思う。

「すると?」

距離も方位もつかめるんだから、夜中だろうが煙幕の中だろうが問題ない。
相手にレーダーが無いなら、一方的な戦闘になってゆく。

「そこまで差がつく事になるの?」

なるし、事実、なった。
もっとも、第二次大戦では戦艦級の砲撃戦そのものが
ほとんど無くなってしまったので、実例は少ないんだけどね。
で、長距離砲撃戦の照準には二段階あるんだが
その両段階、どちらにおいても、レーダーは有効な手段となる。

「ホンマかいな」

ホントだよ。まずは最初、砲撃前の照準。
長距離砲撃戦の場合、これは目標の未来位置予想になるんだが、
レーダがあれば、その計算に必要な要素が、あらゆる条件下でそろう。
方位はややキツイが、それでも無いよりはずっとマシだ。
距離にいたっては、30km先からでも誤差5mとかの世界なんだぜ。
もし方位を目視で測定できたら、ほぼ完璧という状態になる。

この条件なら、位置算出の計算を間違わず、かつ砲撃技術がしっかりしていれば、
初弾から目標周辺に砲弾がばら撒かれる状態、
すなわち挟叉(きょうさ)に持ち込める可能性が高い。

そこからは確率勝負だが、先に挟叉の段階にたどり着いた方が、
多くのトライ(試行)をこなせるわけだから、一方的に有利だ。
夜間や視界の効かない時なら、勝負にすらならないだろう。

「でも、必ずしも挟叉に持ち込めるとは限らないじゃん」

そこからが第二段階だよ。
最初の着弾を見て、次の一斉砲撃のデータを修正する事になる。
ここでポイントとなるのが、水上戦の特殊要素であり、
レーダー照準のもう一つのキモとなる、着弾による水柱の存在だ。
着弾による水柱は「丸い地球戦争編」ですでに見たよね。

「え?ああああ、そうだね、えーと…」

ほら、これさ。



「ああ、これか。…って、こんなのレーダー関係ないじゃん」

いや、遠距離砲撃の場合、目標艦と水柱の位置がうまく重ならないと、
その正確な落下位置がわからない、という話だったろ。
左右方向はともかく、目標の手前に落ちたのか、
向こう側まで飛んで行ってしまったのか、それがわからない。

初弾の砲撃が当たらなかったんだから、照準の修正が必要だ。
それを水柱の位置で判断する必要がある。遠かったのか、近かったのか。
なのに、水柱と目標の位置関係がはっきりしないんじゃ、
砲撃距離を延ばすのか、短くすればいいのか、全くわからない。
さらに夜間だ、煙幕の向こうだとなると、打つ手が無い。

「…じゃあ、もう帰っていい?」

残念、これが射撃管制レーダなら着弾位置を読み取れてしまうんだよ。

「そうなの?」

なにせ40m近い高さまで跳ね上がる直径数メートルの水のカタマリだ。
砲撃による水柱は数秒間は湧き上がってるから、波長が短く、
常に同じ方向を監視してる射撃管制レーダーなら簡単に捉える事ができてしまう。

750MHz波長だった最初の実用射撃管制レーダー、
FC Mark.3の段階で、既にこれは実行可能になっていた。
つーか、これが出来なきゃ、艦載射撃管制レーダとしては意味が無い。
ちなみにMark.3では、40.6cm級主砲弾の着弾水柱を距離18500m以内なら探知できた。

「微妙な距離のような気もするぜ」

うん、実は私もそう思う(笑)。
が、当然、これでは終らないのさ。
大戦中の主力レーダー、FH Mark.8でも当初は同じような性能だったのだが、
改良型のmod3(3型)からは、これが距離32000mまで一気に強化されてしまう。
ついでに、実戦には間に合わなかったMark13だと38400mまで延びる。

「けっこうスゴイ?」

スゴイよ、これは(笑)。
ついでに、実は戦艦クラスのレーダー砲撃戦は、夜間にばかり発生したから、
ほとんど全部20km以下の距離での戦闘となった。
なので、完全にオーヴァースペックだったんだよ、これ。



実際はこんなにキレイには見えないが、
大体のイメージとして、Bスコープによる水柱確認のイメージ。
ギガヘルツ波とはいえ、レーダービーム幅方向の解像度は50m前後、
さすがに水柱を一本一本確認するのは無理で、
いくつかのカタマリとして見えたはずだ。

それでも距離は、ほぼ誤差が存在しないというレベルだから、
着弾が手前なのか行き過ぎたのかは完全にわかる。
方位は最大50m前後のズレが出るが、戦艦、空母クラスなら
長さで250m、幅でも30m近くあるので、ある程度適当に撃っても、
実はけっこう着弾散布界に収まってしまう(笑)。



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