■レツゴー レーダー



なにやらステキでイケテル電波で遠くに居るものを発見するナイスな装置、
というイメージがレーダーにはあるが、軍隊さんにとっては、
それらは使用目的の半分でしかないないんだ。

「いや、そういうもんでしょ。遠くにいる段階で敵を発見する装置じゃん」

まあ、確かにそれが最初の開発目的ではあった。
実際、英仏などは完全にその点に絞って開発してるんだ。
が、レーダーの最大の特徴は目標までの正確な距離がわかる、なんだよ。
目で見る距離測定に限界がある以上、これは重要なポイントだぜ。
まさに長距離射撃照準の救世主だろう。
アメリカ軍が1941年にレーダーとこの装置を命名するわけだが、
その名の中にRanging(測距)の単語を含ませたのは、
最初からその重要性に気が付いていたからだろう。
ここがアメリカという国の軍隊の凄みでもある。

ちなみにイギリスではRadio direction finder、
電波方向探知機と呼んでいた。発想がすでに守りに入ってるぞ。
ついでに日本では、キチンとしたレーダーは電波探信儀と呼んだ。
…これに至っては、何が言いたいのか、さっぱりわからん。
ドイツについてはドイツ語からしてわからんし(ただし射撃照準レーダーは造ってる)。
ついでに知られざるレーダー先進国の一つフランスはもっと謎だらけだ。

「別に興味ないよ。で、レーダーの役割の残りの半分てのはつまり何?」

そりゃ砲撃の照準に使うもの、つまり射撃管制レーダーさ。

「それって、普通のレーダーと違うものなのか?」

違う。民放司会者と違法歯科医者ぐらい違うものだと思いたまえ。

「言ってる意味がわかません」

アメリカ海軍のレーダには大きく分けて2系統あって、
まず一つ目が名前にSが付く警戒用レーダー(Serch radar)。
これはその名の通り、遠くの敵を見つけるためのもので、
一般にレーダーと聞いてイメージするのはこっちだろう。

で、もう一つが射撃管制レーダー(Fire control radar)だ。
まさに射撃照準のためのレーダーで、
大戦中のは基本的に距離を測るのが主な目的だった。
少しずつ高性能化して、方位データもやがて信頼性がおけるようになるんだが、
そこまでのレーダーは少なくとも実戦には間に合ってない。
ついでに対空射撃管制の場合、これに高度が加わるので、
第二次大戦期には少なくとも、完全に実用化された、とは言いがたいレベルで終る。
で、こっちのレーダーは名前のアタマにFが付く。

この二つは、明確に区別されていて、設置場所も、使用目的も完全に異なる。
ちなみに両者とも海軍の場合、対艦、対空ではさらに別ものとなるよ。

「さいですか。金も技術もある国は違うねえ…」

それだけじゃなく、終戦間際には航海用レーダーまでほぼ実用化してたんだよ。

余談ながら、イギリス海軍はとりあえず出来たレーダーに片っ端から
ナンバーを付けて行く、というエラクまあテキトーな命名のようで、
確認できる範囲では271から始まって(なぜこの数字かもわからん)、
298くらいまで、いくつかの欠番を含んで装備された。
なんだかスピットファイアの命名基準を思い出すなあ…

なので対空用、対艦用はおろか、警戒用なのか、射撃管制用なのかも、
名前だけではさっぱりわからん。
恐らく、射撃管制にレーダーを使う、という発想は最初は無かったんだろう。
よって当然、今回はこっちは基本的に無視する。
ドイツに至っては以下略だ。フランスは既に滅亡済み。
極東の某島国については、お互いのために忘れよう。

で、本当なら射撃管制レーダーは射撃照準全体を行うタメの機械、
射撃管制装置の一部として組み込まれるのが普通なので、
そこから見ていく必要があるんだが、今回はまあいいよね。
…ね?

「手抜きだねえ…」

その代わり余談を一つ。
ナウなヤングにバカウケのステルス機、
あれ、レーダーに映らない、よって敵に見つからない、
というのは、そのメリットの内、せいぜい6割ってとこなのさ。

「ナウなヤングを代表して、なんで?と聞こうか」

射撃照準レーダーにも反応しないんだから、
ステルス性が活きてる間は、敵の兵器は無力化されるんだよ。
一般に、警戒レーダーより射撃管制レーダーの方が精度は高いが、
小型化されてるため、その出力は低く、ある意味ゴマカシ易い面もあるようだ。
つまり、たとえ目で見えていても、電波誘導のミサイル類は、
ステルス機相手には、ほとんど使いものにならない。

「ああ、なるほど…。あれ、でもF117だかは撃墜されてなかった?」



世界初の実用ステルス軍用機であり、
世界初の実戦参加ステルス軍用機であり、
世界初の撃墜されたステルス軍用機であり、
世界で最初に引退したステルス軍用機にもなった、
F-117ナイトホークのダンナ。Fナンバーだけど攻撃機だ。


確かにコソボ紛争の時、一機堕とされてるね。
が、あれは、事実上の待ち伏せ迎撃で、レーダで探知してから、
それに対応してミサイルを撃ったわけじゃないんだよ。
最初から、そこを通るとヤマを張って、ずっと待ち構えたんだ。

えらく旧式のソ連製地対空ミサイルを使ってるんだけど、
これ、ミサイル本体に誘導装置は無く、基本的に地上からの誘導操作となり、
途中まで電波誘導で行って、どうも最後はミサイルに付いてるTVカメラから、
目で見てぶつけたっぽい(夜間だが満月だった)。
実際、2発撃ってるうち、1発は完全にハズレ、残りの一発も直撃ではなく、
至近距離の爆発で損傷を与えたものだ。
F117の運動性を考えると、まともな回避運動は期待できないから、
至近距離からぶっ放した(パイロットが発射炎を見てる)割には、
精度はイマイチなんだよ。

当時の撃墜写真で見ても、ほぼキレイに原型を保ってるのはこのためだ。
片翼に損傷を受けて墜落するんだが、
あれは「飛んでるだけでも奇跡」というF117の操縦性の悪さもあるんじゃないかなあ。
片翼だけでも平気で帰ってきちゃうF-15とかなら、
撃墜されなかった可能性はあったと思うぞ。

まあ、ステルスが戦闘機よりも先に爆撃機で実用化されたのは、
運動性の問題で戦闘機に向かなかった、というのもあるが、
敵地に侵入しても、通常の機体より撃墜されにくい、というメリットもあったんだよ。



イギリスの巡洋艦ベルファストのレーダ群。
戦後まで活動していた船だが、レーダー類は戦中の改装以降、変更されてない(はず…)ので、
大戦末期の連合軍の電子の要塞っぷりがよくわかる。




とりあえず右側、煙突の間に立てたられたタワーの上にあるのが対空警戒レーダーその1こと281型。
はっきり言って骨董品ですぞ、これ(笑)。貴重といえば貴重なシロモノ。
一基だけどう見ても仲間はずれにされてるが、これは電波の妨害要素がない場所に置きたかったのか、
あるいは彼が千葉県人で言われ無き差別を受けてるのか、のどちらかだろう。

次に艦橋の上のタワー上、一番上にあるのが対艦と対空を兼ねた、というと聞こえがいいが、
性能的には中途半端な警戒レーダー、293型。
ホールのケーキを半分に切ったような、拡声器型のカバーが付いてますが、
このホーン型のレーダーアンテナカバーはイギリス海軍レーダーの特徴でもある。
レーダー波の左右の広がりを抑える(精度をあげる)といった狙いがあると思うのだが、
当然、詳しいことは知らん(無責任)。

その下、うっかり見落としそうなのが、型番不明の航海用レーダー。
陸地や近くにいる僚艦を探知して、夜間や濃霧の時でも衝突しないで元気に航海するためのもの。
地味な役割ですが、その性格上、正確な方位と形状の探知が求められ、
実はギガ波以上のレーダーでないと使えない、という隠れた厄介モノ(笑)。
ただし、周囲数kmが見えればいいだけなので、出力は小さくてもなんとかなった。
で、おそらくこれだけは戦後の搭載じゃないかと思われまっする。

その下にあるもがもう一つの対空警戒レーダー、277型。
戦艦や巡洋艦ではその艦橋が邪魔になり、電波の届かない死角が出来やすく、
こんな感じで前後に二つの警戒レーダーを積むのは珍しくない。
ついでに、どっちかはバックアップに近い存在となるので、
改修時にはメインだけが新型になって、残りはそのまんま、というケースも多い(なんせ高価だ)。
このベルファストでも艦橋上だけ新型のtype277で、
後ろの281なんて、これ1940年のレーダーなんだぞ。よく残ってたもんだ。

最後に艦橋のすぐ上にある両手で抱えた拡声器みたいのが対艦射撃管制レーダー。
ついに登場、これが唯一の射撃用レーダー。
基本的に主砲の射程距離内が見えりゃいいので、低い位置にある。
下にあるのが測距儀だが、この高さや、あのサイズからして、ほとんど非常用だろう。
それらの下にある、四角い箱状の入れ物の中に射撃管制装置が入ってる。
ちなみに、ベルファストには対空管制レーダーは積まれていない。

と言う感じに、おまえらそんなにレーダーが好きなのか?
という状態になっていたのが連合軍の戦艦、空母、巡洋艦なのでした。




NEXT