■ネコによるジジ砲弾



というわけで、前回はとにかく艦船の砲撃戦は弾が当たらない、
ベストの砲撃で、目標を着弾で包み込む挟叉(きょうさ)状態に持ち込んでも、
相手が横向きならたったの17%前後、
縦方向だとしてもせいぜい50%程度の確率にしかならないのよ、という話をした。

「…あれ鮭の切り身の保存法の話じゃなかった?」

それは前回ではなく前世での話だからもう118年経つんだよ。

「時間が経つのって早いねえ…」

全くだね。
さて、そんなわけで、戦艦や巡洋艦の主砲は、
どんなにがんばっても原理的に必中は期待できない。
敵艦が縦向きか横向きかなんてのも完全に運だから、
中間をとって33%あたりがかろうじて「各弾に期待できる命中率」となるはずだ。

で、今回は最初にオマケとしてちょっとした計算をしておこう。

「オマケ?」

あくまで参考値と考えて欲しいのだけど、主砲砲撃で8発全部外れる可能性を考えて見る。

「それって計算不能って言ってなかった?」

何発当たるか、は計算不能なんだけど、“全部外れる可能性”は計算可能なんだよ。
8発の砲弾は数分の1秒単位で見れば、少しずつ時間がズレて着弾するはずだから、
8回連続での試行(トライアル)とみなすことができる。
よって、幾何分布の考え方が使えるんだ。

「言ってる意味がわかりません」

幾何分布については、株の話のとこでチョコっとやってるのでそちらを参照してね。
と書いてから、読み返してみたら、どうもわかり難い説明だと思うので、
“アタリが出るまで何回ハズレが連発されるかの確率計算”と考えてもらえば大丈夫。
それで計算してみよう、という話だよ。とりあえず、前回検討した
“目標の中心点と砲弾散布界の中心点が一致してる”
という、これ以上ないという条件での射撃で、全弾外れる可能性はどの位あるのか。

「ふーん。で、どの程度なのよ?」

まずは船体が縦を向いてる状態、命中率を50%とと大雑把に見積もったケースから行ってみよう。


このケースでの全弾スカの確率を計算。
ちなみに占有面積率、だれかキチンと計算してくれれば、その数字を採用しますよ…



「あれって適当な数字だったのでは?」

でも、大筋では外してないはずだよ。で、確率1/2の場合、計算は簡単だ。
8発全弾が外れる可能性、これは幾何分布で言うと、
9発目に初めて命中弾が出るケース。
が、9発目は存在しないので、8発目が外れるまでで計算を止めることになる。
よって、考え方としては、以下のようになる。

ステップ1。
8発の内、最初に着弾する弾が外れるか当たるかは50%なんだから、確率1/2。
○か×かは同率で、今回はハズレ続ける前提だから、×の方が発生した事になる。
○、×の二つ、50%ずつの可能性の内、×の方が来たということだ。



ステップ2以降。2発目の着弾を考えよう。
2発連続で外れるケースは、上で青い○をつけたルートの時のみ。
つまり1/4の可能性、というのはわかるよね。
で、以後は同様に8発目に至るまで、×ルートを延々と1/2して行く事になる。
だから、8発連続で外れる確率は1/2の8乗(べき算 1/2を8回掛ける)だ。

「ぐー」

寝るな、ペロ君。もう結論は出てる。
この場合の答えは簡単。1/256だから、約0.4%。

「え?…ああ、えらく低い数字だね。つまり全弾外れる可能性は0.4%?」

正解。つまり、この状態でならほぼ1発以上は当たるだろう。

「具体的には何発くらい?」

それはわからないんだよ。
今回の計算でわかるのは、あくまで“全弾連続して外れる可能性”だけなんだ。
途中のn発目で初命中が出る可能性も計算できるが、
幾何分布の場合当たるとリセットなので、それ以上は話が進まないから無意味だ。

「微妙だなあ」

ちなみに、条件がかなり悪化する、船体横方向の場合も考えてみよう。



この状態の時、命中率は約17%だった。
どうせ大雑把な数字なんだから、これは1/6と見てしまおう。
そうなると、今回の計算はもうわかるね。

「1/6を8回掛ける?」

逆だよ。外れる可能性を考えるのだから5/6を8乗する。
えらくデカイ数字になるので、結論のパーセンテージだけ書こう。
答えは23.3%。つまり約1/4位の確率で全弾外れる可能性がある。

「うーん、高いのか低いのか…」

結構、現実味のある数字だよ。
野球の打率でも2割3分なら、それなりに警戒するべき打者だ。

「とりあえず撃つなら相手が縦向きの時、か」

それは運だろうね。狙えるもんじゃないだろう。
だから、現実的に命中率を上げるなら方法は一つしかない。

「何?」

砲数を増やして、試行回数を増やすんだ。
つまり、8門なんていわず、大和級のように9門とか積んでしまう。
サイコロをふる回数を8回から9回に増やすのさ。
サイコロの場合、出したい目が出るチャンスは
その回数分だけ増えるはずだ。

「すると?」

べき算の回数は9になるから、全弾外れる可能性の数字は小さくなってゆく。
たとえば横向き状態で全弾ハズレの可能性は0.19%、ほとんど誤差以下になり、
縦方向でも19.5%までは下がる。
砲門数を増やす、というのは確率的に見た場合、それなりに意味があるんだね。

もっとも、何度も繰り返すが、これはベスト中のベスト、
実際は理論値でしかないような精度の射撃での話だから、
現実には、全弾外れる可能性は、もう少し高くなるんだ。
実際、実戦でいかに当たらないか、は前回説明したとおりでヤンス。



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