■日本海軍と水平線


というわけで「水平線のはるか向こうまで攻撃しちゃう兵器 その1」として、
日本海軍における戦艦の主砲の射程距離問題を取り上げ、
それが使い物になるかどうかを考えたのが前回までのお話。

で、そもそも撃つ前の段階、目標を照準するレベルでまともに使えないんだから、
その後でなんぼキチンと撃っても、水平線の向こうの敵にはまず当たらないよ、
という結論が出ておしまい、となりました。
なったんですよ(笑)。

で、今回はその第二段、遠距離攻撃大好き日本海軍の至宝、
世界に誇った(自称)日本の技術、酸素魚雷を、
やはり「目標の照準」という視点から考えてみます。
さあ今回こそは、水平線の向こうの敵を撃てるのか。

改めて確認しておくと、基本的にこの連載のテーマは「照準」です。
戦争で遠距離攻撃をブチかます場合、必ず「照準」して「射撃」が行われます。
この二つは全くの別物で、「射撃技術の高さ」というのが、
指示された目標位置にキチンと弾を当てるものだとすると、
その「弾を当てる位置」をキチンと指示するのが照準技術。
両者は二つで一つの関係にありますが、
最初に行われる照準はやはり重要でして、
これが狂ってると、その後の射撃技術がどんなに優秀でも、
主砲がメガ粒子砲並の破壊力を持っていても、全く無意味となります。

どんなにスゴイ砲撃でも、照準が狂ってたら未来永劫当たらないし、
当たらなきゃどんなスゴイ兵器も意味が無い。
だから、兵器の性能、砲撃の優秀さなどを考える前に、
この問題を取り上げてみましょう、と。
あんまり注目されることのないテーマですしね。

はい、前置きはここまで。そろそろ酸素魚雷の話に行ってみましょう(笑)。
最初に、一般的な魚雷の特徴と、その照準方法を見ておきますよ。
ついでに脱線もしますよ(涙)。



写真はアメリカ海軍の航空魚雷。MK.9あたりだと思いますが確証なし(無責任)。
飛行機に積まれることで、魚雷は兵器として極めて高度な完成度を持ったのですが、
それは今回の話に関係ないのでパス。



魚雷は水中を進んで行くため、命中したら敵艦の水面下部分を破損させます。
その結果、食らった船は沈没一直線コースとなるのが長所その1。
主砲の砲弾では、水面より上部分のダメージが主で、
一撃必殺とはいきませんからこれは大きい。
まあ、魚雷も相手が戦艦クラスだと3発、4発は食らわす必要がありますが。

長所その2は、空気よりずっと密度が高い水が衝撃波となって
船体にぶつかるため、水中爆発は破壊力が極めて大きい、という点。
要するに、同じ量の炸薬を爆発させるなら、
衝撃波がはるかに強力となる水中の方がお得なのです。

で、それらとハカリに掛けられるべき短所としては、何より速度が遅いと言うこと。
その結果、当たらない、当たらない(笑)。
海戦ですから、q単位の距離で交戦するのが普通で、
その距離を移動する間に、敵が回避行動を取ってしまうと、
あさっての方向に突っ込んで行く事になります。

この点の解決策は、至近距離、つまり必中の距離から撃つ、
あるいは誘導装置をつける、のどちらかしかありません。
前者が小型の高速雷撃艇の仕事ですね。

他の特徴としては、かなり高価な兵器であること(そのクセ当たらない…)、
そして結構大きいので、駆逐艦や潜水艦では
実はあまり数は積めない、といったところでしょうか。

この特長によって、主砲弾のように海戦中に
一艦から数十発〜100発近くを相手に撃ちこむのは不可能で、
駆逐艦だと、一回の海戦でせいぜい4〜9本の魚雷を
数秒間隔でばら撒く、というのが限界。

ところが海は広くて大きいので、長距離を低速で移動する魚雷は、
確率的に期待できる命中率は極めて低くなります。
それを回避するには、とにかく数をばら撒く必要があるのに、
上に書いたような条件により、それはなかなか出来ない相談なのです。
よって、しっかり狙って、しっかり当てなければいけない兵器なのですが、
低速ゆえにキチンと狙った方向に行っても避けられてしまう可能性が…。
(ただし日本海軍は水雷船隊を組み、船隊全体で最大100発以上を撃てるようにしてたが、
この戦法も実際の戦場では思ったほど活躍の場が無かった)

ついでに、甲板の上、魚雷発射装置周辺に魚雷本体も置いてあったため、
そこに敵の砲撃などを食らって魚雷の強力な炸薬に引火すると、
駆逐艦などその爆発で一瞬でチリとなる、という恐ろしい面もありました。


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