■明るいレンズはよいレンズ

今回からは日本海軍が大戦中最後まで戦艦の照準に使っていた
測距儀(そくきょぎ)を少し詳しく見て、さらにその限界を確認します。

今でも軍艦などには小型の手で持ち運べるタイプのものが
搭載されてますので、見学の機会があれば探してみてください。
大抵、艦橋のあたりにあります。



これは日本海軍が使っていた測距儀で、
タイのHTMSメークロンに搭載されていたもの。
当時としては極めて小型ですが、
レーダーが標準装備の現在の艦船に積まれてるものよりは
ずっと大型です。

これが基本的なタイプで、左右に長い筒の端に穴が開いていて、
中に対物レンズ、つまり目標を見るレンズが入ってます。
中央の盾部の後ろに人が居て、そこにある接眼レンズを覗くのです。
つまり、これは簡易な望遠鏡にもなってます。
ただし、遠くのものを見るためにではなく、
単にそうした方が測定の精度が上がるからです。

当然、左右に自由に回転させられる構造です。



これがその接眼部。
真ん中の窪みは鼻を入れる場所(笑)。
これで捕らえた目標までの距離を読み取ります。


測距儀は簡単に言ってしまえば、単体で三角測量を行なう機械です。
が、それでは全然説明になってないので、少し詳しく見ておきます。




基本的な構造は単純です。
まず横長の筒の左右に覗き穴を付け、
その後ろにある鏡で中央方向に画像を送り、接眼部で見るというもの。
この時、左右で見える目標の角度が微妙に異なりますから、
その差から相手までの距離を計算します。
その角度は左右の鏡の位置から測るのですが、詳しくは後ほど。

測り方(操作法)は数種類あって、ファインダー内で上下に分かれて見える像を、
ダイアルで調整して上下一致させるもの、
カメラのピントあわせのようにブレてる像をきれいな一枚絵にするものなどです。
左右で見ることから立体視を利用し、目標にピントがあって、
距離測定用の目盛りが浮き上がって見えればオッケーというのもあったようですが、
私は、この実物(ステレオ式測距儀)を見たことがなく、正直よくわかりません。

これ以外にもいくつかの種類があり、
日本海軍の測距儀もいくつかの種類が混在してました。
大和型の15m測距儀では上下合わせタイプだったみたいですが、
像が天地反転して見えた、との話もあります。

で、どれもその「画像調整」に成功したら、備え付けのメーターが、
そこに見えてる目標までの距離を指す、という段取りになってます。

で、これも後で詳しく見ますが、三角関数で距離を測る測距儀は、
測距儀の長さ、つまり1辺の長さが長いほど、
その計算基準が正確となり、計測誤差が減らせます。
つまり横長の筒は長いほうがいいわけです。

このため、長距離射撃が必要な日本海軍の戦艦では
左右幅10mクラスの測距儀が使われました。

が、これでも長距離射撃にはかなり能力的に不安があり、
大和と武蔵では、全長15mという化け物みたいな測距儀が採用され、
艦橋のテッペン付近に載せられてます。



前回見たこれですね。

この測距儀はファインダーを覗く人間だけで4人いたようで、
操作員は全部で7名。後に5名に減ったようですが、
正直、どうやって使ったのかよくわかりません(笑)。
(複数の人間に数値を読み取らせ、その平均値を取る事で
誤差を減らそうとしたのだと思われる)

その写真と図解がニコンの社史に載ってるのですが、
なんだか細かいパーツが多く、横にしたクラリネットみたいな印象があります。

さて、そんな化け物クラスの測距儀があれば、
長距離射撃の照準における「正確な距離の測定」は可能だったのか。

この点を検証する前に、測距儀の原理を知る必要があります。
…あるんですよ。

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