■水平線だって越えて行く

で、今回のテーマは「水平線の向こうの戦争」ですから、
レーダー波がどこまで届くかもキチンと確認しておきましょう。

もう誰も覚えていないと思いますが(涙)、大気中では光の屈折現象により、
物理的な水平線の向こう側にあるものが見えてしまう、
つまり視認限界距離である水平線が延長される、という話はすでにしました
したんですよ(笑)。

でもって、同じ電磁波であるレーダーの電波(マイクロ波)、
当然、これも大気の密度差(温度差)により屈折、水平線を越えて行きます。
結論を先に書いてしまうと、レーダー波は光より遠くまで届くのです。

第二次対戦期のレーダーで使われた2m〜数cm程度の波長の電波は、
光に比べ直進性が劣るため、屈折しまくりで可視光線よりさらに遠くまで届きます。
このとき、屈折している以上、直線より長い距離を飛んでますが、
なにせ光速ですから(笑)、距離の測定においては、すべて誤差の範疇です。

重要なのは、レーダーは、肉眼で見える水平線より、
さらに向こうにある目標を捕らえる事ができる、という点です。





計算から入ると多分誰も読まないので(泣)、結論から先に。

本来、電波にしろ光にしろ直進しかできないのだから、
一番手前の「物理的水平線」を超えられず、ここより先は見たり知ったりすることができないはずです。

が、大気によって電磁波が屈折させられる地球上では、
それを超えた向こう側から、情報が届いてしまうのです。
この場合の屈折は、グキっと大きく曲がるのではなく、少しずつ無数に曲がるため、
結果的に放物線を描くような軌道となって水平線を越えて行きます。
で、その到達距離は可視光線より屈折しやすいレーダー波の方が長く、
その関係は上の図のごとし、です。具体的な数字で見てみると

物理的水平線までの距離を1とした場合、
可視光線の水平線=約1.09
レーダーの水平線=約1.15


といった関係になり、レーダーの電波が最も遠くまで届きます。
ただし、どちらも「平均的な大気状態の場合」です。
当然、これ以下のこともありますし、さらに延びる可能性もあります。
が、通常、可視光の水平線より電波の水平線が短くなる、という事はないと思っていいいようです。

さらに電波の場合、逆転層という上空の大気の方が地表より暖かい現象が発生すると、
その逆転層の境界面で下にはじかれ、さらに地上でもう一度上にはじかれ…という反射を繰り返し
ジグザグに地球の表面にそって飛んで行き、驚異的な到達距離の伸びを見せることもあります。
レーダーでの実績はよくわかりませんが、VHF波では物理的地平線の数倍の距離を飛んだ、
というケースもあるようです。




さあ、どさくさにまぎれて、メンドクサイ話を片付けてしまいますよ(笑)。

可視光線でどこまで視界が延びるか、という計算は光の大気中での屈折率、
すなわち平均大気差を使って求めました。
レーダー波も同様に計算できるはずなんですが、このデータが見つからず、
どうも「等価地球半径」の考え方で行くみたいです。
正直、なぜだかはわからんのですが、とりあえずその計算方法を見てみましょう。

ポイントは一つだけ。
放物線を描いていてたレーダー水平線までの距離を直線で引きなおすと、
物理的な水平線より長いため、上の図のように作図ができます。

これはレーダー水平線を、地球の半径を延長した、より大きな半径の球面での
物理的な水平線として考えることができる、という意味です。
ええ、ムチャクチャな話ですが、これしか計算方法がないのでガマンしてください(笑)。
この計算のためにデッチあげたサイズの「仮想地球の半径」を「等価地球半径」と呼びます。

こうすると、実際の地球半径よりどれだけ大きな半径を設定すればいいのか、
がわかれば、レーダー水平線は例のピタゴラスの定理で計算できます。

で、この数字が3/4。出どころは不明(笑)。
が、あらゆる資料でこの数字が使われてるので、おそらく正しいのでしょう…。
よってレーダー水平線は地球の4/3倍の半径をもった球体を使って計算で出せる、
ということになるわけです。

途中経過はもうさすがにはしょって(涙)、計算式だけ書いておくと、


となります。

はい、とりあえず今回はここまで。

次回、レーダーにもいろいろあるのよ、と言う話と、
実戦におけるレーダーの使われ方を見て、最終回となる予定。
なるといいな、と言うことで、次回に続きます。


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