■将軍はどんどん生産する

そろそろ本題に入ろう。
第二次世界大戦時、すでにGMはアメリカ最大、
よって世界最大の自動車メーカーになっていた。
しかもそのトップには人類史上最強経営者の一人、スローンが君臨していた。
そんな会社が戦時生産に突入すると、まあえらいことになるわけで、
全体像を見きわめるだけで、一苦労なのだ(笑)。

まずは、自動車メーカーとして以外の活動、GMにおける航空機生産について見てみたい。

第二次世界大戦期に突入すると、GMは配下の複数の工場を航空機生産用に転換、
イースタン エアクラフトという航空機専門の部局(division)を立ち上げ、
主にグラマンの艦載機をライセンス生産した。

グラマンは海軍の主力機を次々と製造した大手名門、という印象があるが、
どうも戦争中を通じ、自社工場はニューヨークの東にあるベスページだけだったようだ。
(現在、跡地は航空博物館になっている)
よって、F4F、F6F、さらには雷撃機のアヴェンジャーという海軍向けの機体を
自社生産だけでまかなうのは、どう見ても不可能だった。

で、ご存じの方も多いと思うが、米軍機の形式名の一部はメーカー(製造工場)を示し、
グラマンはF、イースタン エアクラフトはMが割り当てられていた。
よってTBFアヴェンジャーはイースタンで造るとTBMとなる。
F4FワイルドキャットはFMですね。

なので、F6Fヘルキャットの採用が決まると、間もなくF4Fワイルドキャットの生産は
イースタン エア クラフトに移行され、その結果、機体名称はFMに変更された。
実はワイルドキャットの総生産数約7600機のうちの
約5500機前後(正確な数字は不明、とする資料多し)、
だいたい7割以上はイースタンエアクラフトのFMだったりするのだ。

ついでにちょっとだけ知ったかぶりをすると、
イースタンの場合、名前はアルファベットのFMだけだ。
大量生産命の自動車屋さんが製造した結果、FM-2が一気呵成に造られまくったため、
F4Fに対してFM-2か、と思ってしまうが、この「-2」はサブタイプを示し、
少数ながらFM-1という機体も存在する(2段2速過給器搭載型)。

まあ、よって太平洋で「おのれグラマンめぇぇぇ !」
とか言われた機体の内、結構な数がグラマンでは無かった可能性が高い(笑)。




スミソニアンの航空宇宙博物館で展示されてるFM-1。

GMの一部局であるイースタンがF4Fの生産に乗り出すのは42年、
量産といえるレベルになるのは43年から。
間もなくF6Fが登場するってのに、生産はむしろ本格化、
少なくとも44年までは造られ続けてました。

基本的には護衛空母向け、本格的な機動部隊以外の部署に廻されたためで、
新型のF6Fは大きすぎて、輸送船の護衛、対潜哨戒などの任務にるいていた
小型の護衛空母では運用できなかったのでした。

なので護衛空母用といっていいFMでは、対空戦闘はあまり考慮されてなく、
この結果、F4Fの最大の武器ともいえる高高度性能の源となっていた
2段2速過給器は外され、1段2速にパワーダウンしてますね。
それでもFM-2だけでも4000機以上造られているのが、さすがアメリカ。

で、余談ついでに突っ走りますが(笑)、
FM-2は軽量化されていたこともあって、とても扱いやすく、
「実は米海軍最優秀戦闘機では?」
という英語圏の記事をたまにみますが、
1段2速のエンジンで、2段2速のR2800積んだF6FやF4Uに適うわけないでしょう(笑)。
上空でアタマ押さえられて、オシマイですよ。



で、同じグラマン社のアヴェンジャーもだいたい同様な経過をたどる。

少し脱線しておくと、海軍の攻撃機には、爆撃機だけではなく、
対艦船用に魚雷をぶっぱなす、雷撃機、というのがある。
米海軍ではアヴェンジャーがそれにあたるわけだ。
それって何の役に立ち万年雪、というと、
お船を沈めるには水の下にある部分に穴を開ける必要があるわけで、
爆弾では艦上構造物は破壊できても、なかなか水面下にドカンとは行かない。
なんぼ上の方に穴を開けたって、そこから水は入らないから、沈まない。

そこで、魚雷ですよ、奥さん!

水中をつっぱしって行く、ということは、
命中すればお船のドテッパラに穴をあけるわけで、
艦船相手なら、かなりの致命傷を与えることができるのだ。

またもや脱線すると、潜水艦が艦船にとって恐ろしい理由として、
水中にいて姿が見えない、というのは、その理由の半分だけでして、
残り半分は、連中の主武装は魚雷だ、という点なのだワン。
姿を見せない相手が、必殺の一撃を持ってる、という点が
潜水艦の存在価値、ということになります。
(戦略核ミサイル搭載艦とかは、今回の話では関係ないから無視)

で、アヴェンジャーもかなり早い段階からTBMという名称で、
生産がイースタンに移っており、総生産数約9800機(ワイルドキャットより多いのだ)
のうち7500機が同社製とされるから、約8割近くを製造していることになる。


 

イースタン製のTBMアヴェンジャー。ちなみに本家グラマン社製はTBFとなる。

搭載エンジンは2000馬力を切ってるR-2600なのだが、3人の搭乗員と、
12.7mm機関銃を3門、7.62mm機関銃を1門搭載、その上で魚雷を積むことが出来た。
実機は呆れるほどバカでかい。よく単発機にしようと思ったもんだ。

日本海軍の大和や武蔵を沈めたり、ドイツのUボート狩りなどに使われた他、
ブッシュ(パパの方)大統領が大戦中乗っていて、撃墜された機体でもある。

この機体を見ると「中翼で脚が長くなるとよくない」という一部の艦載機で見られる
「低翼設計&逆ガルウィングにした理由」が、とってもバカバカしく思えてくる(笑)。
まあ、さすがグラマン鉄工所の機体ではある。


なので、イースタンののバックアップがあって、初めてグラマンは
F6Fの生産に特化して行く事ができたと言えるだろう。
米海軍が艦載機をあれほどの数、戦争期間中に配備できたのは、
イースタンの生産力におうところが少なくない。
で、両機種を合わせると、その総生産数は約12500機以上にもなり、
ゼロ戦の全生産機数を超える量の機体を、自動車屋さんが造ったことになる。
よくやるなあ…。

で、実はこれでもまだ前フリに過ぎなかったりする(笑)。
GMと航空機を考える場合、もっと重要なポイントが二つあるのだ。


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