■レキシントンの悲劇

さて、もう一隻の空母、より日本の攻撃隊に近い位置に居た
USSレキシントンはさらに強力な攻撃にさらされる事になったわけですが、
次はこちらを見てゆきましょう。

ちなみにUSSレキシントン側の護衛に付いた巡洋艦、
USSミネアポリス(Minneapolis)艦長が、
護衛のSBDと日本の雷撃機の区別がつきにくく、
SBDは輪陣形の護衛艦から何度か対空砲火を受けてるはずだ、と
極めて正直な証言をしてたりします。
(ただし死傷者は無し、というフォロー付きだが、証拠はない…)

ちなみに、こちらの護衛艦も何隻かが小型爆弾による爆撃を受けた、
と報告してますが、日本側にそういった記録は無く、誤認でしょう。

で、ここでまたこの図を掲載。



USSヨークタウン攻撃との差は、大きく三つで、
これが戦果の違い(USSレキシントンは魚雷と爆弾を2発ずつ被弾)
につながったと思われます。

1. 雷撃隊が別方向から挟み込むように攻撃してる。

2.雷撃、急降下爆撃の同時攻撃に成功してる。

3.そもそも機数が多い。

まず、雷撃隊が二つに分かれて、逆方向から挟み撃ちにするように
攻撃を仕掛けたのが大きなポイントとなりました。
しかも今回はキチンと別方向から接近してるので、
両者の時間差がほぼ無い、理想的な同時攻撃になってます。

上の図で見るとわかると思いますが、瑞鶴隊が西から、翔鶴隊が東から
それぞれUSSレキシントン(図中ではサラトガ)に向かってます。
これによって、USSレキシントンは針路が限定され、
完全に雷撃を避ける事が不可能になるのです。
たった2機(推定)とはいえ、主力の翔鶴隊と反対側から
USSレキシントンに雷撃を仕掛けた瑞鶴雷撃隊の働きは極めて大きいものがありました。

この辺り、事前の打ち合わせがどうなってたのかがよくわかりませぬが、
とりあえず、この瑞鶴の2機の雷撃機の働きがこの海戦の結果を決めた、
といっても良い部分があるのは間違いいありませぬ。
逆に言えば、瑞鶴隊と挟み撃ちにするように回り込んでる翔鶴隊の雷撃機は、
本来なら全機でUSSレキシントン攻撃に向かってはならず、
一部はUSSヨークタウン攻撃に向かうべきでした。

で、USSレキシントン側の記録では、日本側の雷撃機の高速に驚くと共に、
高度300〜500フィート(91.4〜152.4) 、
距離1200ヤード(約1.1q)以下の位置で魚雷を投下したとされ、
日本側がほぼ教科書通りの見事な攻撃を行ってるのが見て取れます。

中には500ヤード(約457m)の至近距離まで接近してから雷撃して来た機体もあったとされ、
日本側の雷撃機の攻撃の凄まじさが見て取れます。
(余談だが、アメリカの場合、高度はフィートで、距離はヤードで記載することが多い。
何でこんなヤヤコシイ事するのか判らないが、換算が要注意な部分ではある)

USSレキシントン側の記録では雷撃機の機数がはっきりしないのですが、
(後のWAR DAMAGE REPORT No. 16には7本の魚雷航跡があったとされるが)
とりあえず魚雷を避けるために最初は全力で左舷に舵を切りました。
が、左右両側からの同時雷撃ですから、結局避けきれず、
攻撃開始から約5分後の11:20、左舷前方に最初の命中魚雷を受ける事になります。
その直後、11:21には同じく左舷側、ちょうど艦橋の反対側にもう一発命中が出て、
全部で2発の魚雷命中となりました。

当然、この間、艦の針路は魚雷によって極めて限られた範囲に絞り込まれてます。
そして、はるか上空から、ほぼ同時に攻撃体勢に入った艦爆隊が、
そんな状態のUSSレキシントンに襲い掛かる事になるのです。



■Image credits:From U.S. Naval History and Heritage Command Photograph. NH 95579
It's taken by japanease navy.



日本側の撮影による空襲を受けるレキシントン。
艦体周辺に立っているのは爆撃による水柱。

ちなみに艦体中心部から黒煙が上がってますが、
これは2発目の命中弾、煙突後方に当たったものだと思われます。
最初の命中弾による火災は左舷船体前方で起きており、よく見ると、艦首方向から
飛行甲板を横切ってこちら側に煙が流れてるのが見えます。
(左側に向けて高速回頭中か?)

一番手前、左側には護衛の駆逐艦(USS Phelps)も見えてますし、よく見ると
USSレキシントンの向こう側にも一本航跡が見えてますから、さらに護衛艦が居るのがわかります。
この辺り、前日の祥鳳の攻撃写真に、一隻の護衛艦も見えてないのとは対照的な部分です。

手前に見えてる水柱は対空砲の炸裂した破片によるものにしては大きすぎるので、
外れた爆弾、撃墜された機体が突入したもの、
写真で見えてない位置に居る機体からの雷撃などが考えられますが、
決め手がありません。詳細不明とします。




急降下爆撃は最初の魚雷が命中した直後の11:20ごろから開始されたと
USSレキシントン側の記録にあるので、
理想的な同時攻撃になっていたのが見て取れます。
さらに、爆撃開始直後に、早くも最初の命中弾が出たため、
魚雷と爆撃の同時命中といった状況にUSSレキシントンは追い込まれるのです。

最初の爆弾は左舷前方、飛行甲板の左端に命中、
これは2発の魚雷が連続して命中した位置のすぐ上、という場所でした。

ちなみにこの命中弾はちょっと謎が多く、USSレキシントンの報告だと
おそらく命中したのは1000ポンド(約453.5kg)級の大型爆弾だろうと書かれてます。
実際は日本側には250s爆弾しかないのは、何度も書いた通り。

それほど大きな衝撃と損害があったのか、と思ってしまうとこですが、
この位置には5インチ砲など、左側の前部銃座があった位置だったため、
予め用意してあった5インチ砲の砲弾に引火してしまい、
これが大爆発を起こして、その衝撃もあったようです。

…ところが、海戦の後にまとめられたUSSレキシントンの
戦争損害報告書16号(WAR DAMAGE REPORT No. 16)では
実際の被害は小さなもので、5インチの砲弾の誘爆もなかった、
むしろ250s以下の小型爆弾ではないか、としてます。
(繰り返すが、実際の爆弾は250sのみだった)

この差がどこから出て来たのかわかりませんが、
なにせレキシントンの現物は沈んでしまってますんで、キチンと損害個所を
見ながら検証したわけでは無いわけで、決め手に欠けます。
とにかく目撃者の印象によって
ここら辺りの証言は、だいぶ変わってしまったのかもしれません。

でもってこの爆弾の意外な副産物として、命中したのが
指令長官や艦体参謀の部屋の側だったため、鎮火に手こずったようです。
海軍のお偉いさんの部屋ってのは、
意味もなく贅沢な家具が置かれてたりしますから、
これが派手に燃えたのだと思われます…。
それでも、襲撃終了後には鎮火に成功してるようですが。

二発目の命中弾はUSSレキシントンの巨大な煙突の左側(甲板側)後部根元付近に命中、
周辺にあった銃座を破壊して、多数の死傷者を出してます。

さらにもう一発、極めて至近弾となった爆弾があり、当初はこれも入れて
3発の爆弾の命中があった、と報告されていたのですが、
後に戦争損害報告書16号では、これは至近弾であり、命中弾ではない、とされました。

最終的にはさらに2発の至近弾があったようですが、とりあえず爆弾の命中は2発のみで、
日本側の攻撃は、魚雷2発、爆弾2発の命中で終わったことになるわけです。
最初の魚雷命中から、最後の爆弾命中まで、7、8分だったとされるので、
航空攻撃がいかに一瞬で決まるかが、よく判ると思います。

ただし、これらの攻撃が終わった後でもUSSレキシントンは
せいぜい中破、という損害しか受けてませんでした。
全力航行は無理でも24ノット前後での航行は可能であり、
さらに艦載機の離着艦もまだできました。

船体に大きな損傷を受けたものの、致命傷となる事は無く、
さらに言うなら、空襲終了後、全ての火災は消火されてます。
実際、空襲から30分前後で、ほとんどの応急処置は終わり、
後は戻ってきた攻撃隊の収容を終えたら、この海域を離脱するだけ、という状況でした。

ところが、12:47ごろ、突然、USSレキシントン艦内で大爆発が発生、
これがもとでこの日の夕方に沈没に至るのです。
一体全体、何があったのか、そして日本側の攻撃の実際の成果は
どんなものなのか、といった辺りは次回、見てゆきます。


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