■空中戦は低調だった

でもって実際の攻撃と損害はどんなものだったのかを見てゆきます。
まずは敵の護衛機との戦闘とその結果から。

最初に確認しておくと、攻撃隊の護衛に付いたゼロ戦は
全て3機編成の小隊で、瑞鶴の小隊が14、15、16の三小隊、
翔鶴は11、14、15の三小隊、よって計18機となってました。
ちなみに瑞鶴隊、翔鶴隊ともに同じ数字の14、15小隊が存在するので、
混乱しないよう注意が要ります。

ただし残ってる記録は全て戦闘後に、
生存者の証言を元にまとめられたものであり、
これだけ未帰還機が両軍に出た戦闘で、
そられの戦闘は記録に無いのですから、
その再現には自然と限度があります。

なので、あくまで日米双方の資料から読み取れる範囲内で、
可能な限りその過程を辿ってみましょう。
とりあえず、例の攻撃図を再度掲載。

 ■引用元:
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030742800、
昭和17年5月4日〜昭和17年5月10日 軍艦瑞鶴戦闘詳報 
(珊瑚海海戦に於ける作戦) (防衛省防衛研究所)

*上記の資料から汚れを除き、情報を追記。




まず、アメリカ側の戦闘機は事前の迎撃には失敗したものの、
余計なレーダー誘導を受けないで艦隊上空で待機していたUSSヨークタウンの4機と、
USSレキシントンの2機、計6機のF4Fが艦隊の北東上空で待ち構えてました。
さらにここから低空侵入に切り替えとなる雷撃隊、
97艦攻の部隊の場合、下にはSBDの護衛機も居たわけです。

ただし、この図で見ると、アメリカの迎撃機と戦ってるゼロ戦部隊は
左側、雷撃機の護衛に付いた小隊ばかりで、
右から下側に回り込んだ艦爆隊には“空戦”の文字が出てません。
実は日本側の記録を見ると、護衛戦闘機は瑞鶴隊、翔鶴隊ともに、
全機雷撃隊に付いて行っており、艦爆隊に護衛の戦闘機はなかったのです。
えー、なんで?と思ってしまうところですが、

1. 低空に降りて直線飛行する雷撃隊の方が危険と思われた。

2. 前回見たようにアメリカ側は迎撃戦闘機を
4000m以上の高度には上げておらず、艦爆隊は安全と判断した。

3. 敵戦闘機とSBDが海面付近にウヨウヨ居るのが見えたので、そっちに集中した。

といった辺りでしょうか。
もっとも単座のゼロ戦は無線機が使い物にならず、
上空で僚機と連絡する手段が手信号くらいしかい無い、
という世界的に見ても珍しい戦闘機ですから(涙)、
気が付いたら皆雷撃機に付いて来てしまっていて、今さらどうしよう無かった、
という悲劇の可能性もゼロではありませぬ。

ついでながら、アメリカの両空母から8機ずつ、計16機出ていたはずのSBDも
この図には9機としか記入が無いので、こちらも接触すらできなかった、
という機体がかなりあった可能性が高いです。
ちなみにアメリカのF4Fパイロットは、これらのSBDの事を
“大人の仕事をやらされたチビッ子のようだった”と表現してます。
(like a small boy sent to do a man's job)
まあ、その成果は察して知るべし、なのでしょうね。

ここで再度同じ図を掲載。



まず瑞鶴雷撃隊の護衛に付いていた瑞鶴ゼロ戦隊、
第16小隊(fc16D)が針路を外れて大きく外に向かい
そこで空中戦をやったことになってますが、これがF4Fとの戦闘でした。
ただし、相手の機数、および戦果は不明。

図の下の方に敵の戦闘機(fc)3機、の文字が見えてますが、かなり場所が違うので、
こちらで空戦したのはUSSヨークタウン隊の4機か、USSレキシントン隊の2機、
どちらかの可能性が高いように思いますが…。

そのすぐ下に書かれた第14小隊(fc14b)による空戦は
飛行機体行動調書に“敵機約12機と交戦”
とだけ記録にあるので、相手は恐らくSBDの編隊でしょう。

ただし図中では9機とあるので、数が合いませんが当時の一次資料でも、
この位の齟齬は珍しくない、というのは既に散々見てきましたから気にしない(笑)。
実際はUSSレキシントン隊かUSSヨークタウン隊のどちらか8機だけと交戦、
といった辺りが正解だと思います。
ちなみにこの図だと第14小隊だけが戦闘したように読めますが、
戦闘行動調書によると、14、15両小隊、計6機がこの空中戦に参加してます。

アメリカ側の記録では、USSヨークタウンのSBD隊が、
多数のゼロ戦に襲われて、あっという間に8機中4機が落とされた、
とされているので、その戦闘がこれじゃないでしょうかね。

次は途中から分かれた翔鶴隊ですが、図だと第14小隊と第15小隊が
途中で空戦に入った、と読めますが、こちらの戦闘行動調書では、
敵戦闘機隊と雷撃隊(SBDの誤認だろう)と戦闘、とあるだけで、詳細は不明。

いずれにせよ、このアメリカ側迎撃機による被害は、
瑞鶴の艦攻が1機落されたという記録があるだけです。
もちろん、記録に残らないまま、誰も見てないところで
撃墜された機体もあった可能性がありますが、
その損害は軽微であった、と見て問題は無いでしょう。
アメリカ側の迎撃機による艦隊護衛はほぼ失敗だった、という事になります。

ただし、さらに目標の空母に突入するには、密集して組まれた
敵護衛艦の輪陣形を飛び越える必要がありました。
艦爆隊は目標上空まで4000mの高度を維持してたのでまだマシでしたが、
低高度でこれを突破して空母に肉薄しなければならない雷撃機は、
ここで相当な被害を出したと見られます。

敵の迎撃機と空中戦があった辺りで高度1200mとされてますが、
恐らく輪陣形の上を超える時には、もう少し高度は下がっていたはずです。
ただし、ここら辺り、この段階でどれだけ損失があったのかは、
そんなの冷静に数えてる人間が戦場で居るはずもなく、ハッキリしません。

ちなみに、護衛のゼロ戦隊は、対空砲火には無力ですし、
付いて行っても意味が無いので、この輪陣形の外で、
敵戦闘機をけん制しつつ、攻撃隊が脱出して来るのを待ったと思われます。
(当然、敵の護衛機も危険だからこの中には入って来ない)

といった感じで、いよいよ攻撃開始となるわけですが、
とりあえず今回はここまでとします。


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