■日本側は予想外の大騒ぎが待っていた

さて、ではこの戦闘における、両空母機動部隊の動きを最初に追いかけます。
まずは日本側から。

8:24に敵航空部隊見ゆ、の報告を翔鶴索敵隊の菅野機から受け取った
MO機動部隊司令部はすぐさま攻撃を決意したようで、
9:10ごろに翔鶴、瑞鶴の両空母は、全力で攻撃隊の発艦を開始しました。

この時、最初に瑞鶴から3機の上空護衛機が上空に上がり、艦隊護衛に付いており、
これがこの日、最初に上空に上がった護衛機となります。

ちなみに瑞鶴に10機、翔鶴に9機の艦隊護衛ゼロ戦が残されたのですが、
両者で編隊構成がだいぶ異なり、瑞鶴隊は3機小隊×2、4機小隊×1の全部で3小隊編成。
対して翔鶴では2機小隊×3、3機小隊×1の4小隊編成でした。
2機ずつのペアを組んでる翔鶴、伝統的な3機編成が中心の瑞鶴、という
同じ五航戦の中でも、かなりはっきりと違いが出る編成です。
ただし攻撃隊に付いて行った制空隊の編成は、瑞鶴、翔鶴ともに3機編隊でしたから、
機数が少ないゆえの苦肉の策だったのかもしれませぬ。

で、日本海軍の場合、攻撃隊は上空でキチンと編隊を組んで、
それから攻撃に向かうため、発艦時間と、艦隊上空を離れた時間はズレるのが普通です。
この時の攻撃隊も、それは同じでした。
ところが何度も書いてるように、この日の朝の天気は雲が多く、
海上の艦隊から上空を見る事は困難で、攻撃隊が編隊を組み飛び去るまで、
下の艦隊からは全く視認されてなかったようです。
よって艦隊としては、攻撃隊がいつ、どちらに飛び去ったかわかってませんでした。

そしてこの時、上空に上がった攻撃隊は
雲が多かったためか編隊を組むのに苦労したようで、
その出撃準備に、かなり時間が掛かっていたと見られます。
さらに艦隊上空で完全に編隊を組めなかったのか、
なぜか一度大きく艦隊を取り巻くように周回して編隊を調整、
その後、敵機動部隊に向かってるようです。

飛行隊の記録によると、9:20〜30には編隊の調整を終えて
進撃開始となってますが、以後の状況から見て、
実際はもう少し時間がかかったと考えるべきでしょう。

この間、海上のMO機動部隊からは、
上空の攻撃隊が編隊を組むのに苦労してるのは全く見えてませんでした。
レーダーなんてシャレたものは、まだ日本側にはありませんから、発進終了後、
攻撃隊は間もなく飛び去ったと思い込んでいたようです。

そして30分近く上空で編隊を整えていた五航戦の攻撃隊がようやく飛び去るとき、
不幸にして艦隊から見える位置で雲の切れ間を通過した事が
思わぬ事態を引き起こします。
これを目撃したMO機動部隊は、まさか攻撃隊が今の今まで付近上空に居たとは思わず、
敵の攻撃隊だと勘違いして9:48、対空戦闘を開始してしまうのです。

この時、護衛の駆逐艦には戦闘旗が掲げられ、
バンバン対空砲火を撃ち上げたようですが、
幸いにして距離があったうえに、攻撃隊は艦隊から
遠ざかって行ったため、同士討ちは避けられました。

ところが駆逐艦はともかく、五航戦の司令部までも
これが敵か味方か判断できませんでした。
いくらなんでもまだ敵は来ないはずだ、と思いながらも
瑞鶴に残ってた6機のゼロ戦を発艦させて、これに向かわせます。
(ただしこの数字(瑞鶴の戦闘詳報による)は怪しい。
瑞鶴に残ってた護衛ゼロ戦の小隊は、4機×1小隊、3機×2小隊の計10機だった。
9:00に哨戒任務で3機が上がった、という事は残り7機で、
小隊がバラバラに行動する事は普通無いので、実際は7機ではないか。
もっとも、後で見るように瑞鶴のゼロ戦の内、1機はエンジンの調子が悪く、
このため、艦上に残った可能性もあるが…)
同時に翔鶴からも6機が上空に上がり、対空警戒に入ります。

最終的に、瑞鶴のゼロ戦隊が謎の編隊に追いついて確認したら、
友軍機と判明、10:10ごろ対空戦闘中止、となったのでした。

ちなみに、この段階でMO機動部隊は無線封鎖なんてやっておらず、
南洋部隊司令部などにガンガン無電を打ってますから、
単に無電で敵味方を問い合わせればいい話だと思うんですが…
どうも五航戦司令部ってのはよくわからん部分が多いですね。

この後、瑞鶴の飛行隊は最初に哨戒機として、朝から上空にいたゼロ戦3機を残し
10:30ごろまでに他の6機(7機?)は着艦収容され、艦上で待機となりました。
翔鶴から上がった6機は、内3機が着艦、入れ替わりに4機が上がってます。
が、既に菅野機から敵艦隊より攻撃隊発進の通報があったため、
間もなくその4機も上空に上がったようで、翔鶴側は全機発進となります。

よって、上空警戒に残ったのは瑞鶴機3機、翔鶴機9機、計12機でした。
それに加えて瑞鶴艦上にて待機が7機という事になります。


■Image credits:Copyright Owner: National Archives
Catalog #: 80-G-221849



自分の艦隊から飛び立った友軍機と敵攻撃隊を見間違えるものだろうか、
と思ってしまいますが、この辺りは無理からぬところではありました。
高射砲の射程距離内に入った機体でも、
雲が多い空の下だと、こんな風にしか見えませぬ。

…こんな風って言われても何がどう?という感じですが、
画面やや左下、煙を引いて落ちて行くのが日本の攻撃機です。
ちなみに左上の黒い点は、最初フィルムの汚れかと思ったんですが、
どうも対空砲弾の炸裂らしいです。



ややアップで。
写真と違って実際は動いてるので肉眼でなら、もっと認識しやすいはずですが、
それでもここから敵味方を判別しろってのは無理ってもんでしょう。
アメリカ空母部隊が敵味方識別装置(IFF)の無い友軍機の識別に手間取ったように、
日本側も艦隊周辺に突然出没する機体の判別には手こずった、という事になります。
この辺りも実際に戦闘をやってみて、初めてわかった事実なのかもしれませぬ。


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