■それはなんとも複雑で

さて、いよいよMO作戦が開始されるわけですが、
この作戦は、なんのための作戦?と聞かれれば
ニューギニア島南岸のポートモレスビーを攻略するための作戦だよ、ハニー
の一言でオシマイです。

じゃあ、具体的にどんな作戦なの?と聞かれると、
30秒くらいの沈黙の後、脂汗流しながら倒れる、というくら面倒な内容で、
いかにも第四艦隊の参謀連中が考えたらしい、机上の空論作戦になってます。
ええ、あきれております(笑)。
もうちょっとなんとかならなかったのか、これ…

まあ、非常に面倒なんですが、それでもここを理解してないと、
今後、さらにわけが判らなくなるので、最初にある程度、キチンと説明しておきましょう。
これ、現場で全体像を完全に理解してた人、どのくらい居るんでしょうね…。

さて、まず基本中の基本、作戦の目的は

●連合軍の拠点となっているニューギニア島南岸の
ポートモレスビーに上陸、これを占領する


であり、基本的な約束事としては

●5月10日を上陸予定日とし、これをX日とする

というだけです。
X日、という言い回しは日本海軍の正式な命令に使われるもので、
すべての作戦の日取りはこの日を基準にX-1、X+3といった感じで指示されます。
MO作戦ではその主要目的である
ポートモレスビー攻略を基準日、X日としたわけです。
ここまでは、単純明快(笑)。すばらしい。

が、ここからがやっかいで、MO作戦は大きく四つに分かれた作戦構想と
それを実行する部隊に分かれて行きます。
この結果、それぞれがほぼ独立し、平行しながら作戦は展開される事になり、
めちゃくちゃヤヤコシイ状態、と言っていいです。
そして、案の定、いくつもの行き違いが後に生じることになります。
とりあえず、四つの作戦要素ごとの部隊を見ておくと、こんな感じ。

1. ポートモレスビー攻略部隊
2. 水上基地建設部隊
3. 上陸部隊の護衛艦隊主隊
4. 空母機動艦隊

1.は、まあわかるでしょうが、2.は間違いなく説明が要るでしょう(笑)。
先にも書いたように、制海権を持たない珊瑚海に進出する不安から、
日本海軍が考え出した対策がこれです。
ポートモレスビー上陸部隊の進出に先立ち、
水上機基地の建設を行い、珊瑚海一帯を航空機で哨戒しよう、
うまくいったら九七式飛行艇(大艇)に魚雷積んで、攻撃までやっちゃおう、という考えですね。
そのために作戦海域周辺に基地をつくろう、というものです。

そのために選ばれたのが、ツラギ、デボイネ、ロドニーエントランスの三箇所の土地で、
ポートモレスビーの前に、まずここを占拠して水上機基地を造っちゃえ、というわけです。

この水上機基地建設計画は、イマイチ不明瞭な部分もいくつかあるんですが
大筋で以下のような作戦だったと見ていいでしょう。



まず水上機基地建設&現地制圧部隊はラバウルの湾内に集結後、
ポートモレスビー攻略部隊に先行して出撃します(実際の作戦では4日先行した)。

そしてソロモン諸島の東側で(より遠くまで偵察飛行ができるから東側が理想的)、
水上機の基地に向いている、と判断されたツラギの攻略に向かい、
最初の水上機基地をここに建設、珊瑚海北側の哨戒を開始します。
ちなみにツラギは、フロリダ島の横にある小さな島の名前です。

その次はニューギニア島の東側に広がる珊瑚礁の島々、
当時はルイジアード諸島と呼ばれていた島の中にあるデボイネ島に進出、
ここに次の水上機基地を建設します。

なんだか中途半端な位置に見えますが、この一帯は珊瑚礁の島が多く、
多数の輸送船をふくむ船団が通過できる水路(水道)はこの島の周囲にしか見つけられず、
連合軍にここを抑えられないようにするための基地でもありました。
逆に言えば、MO作戦専用基地、みたいなもので、
このため作戦の失敗が決定した後、あっさり放棄されます。

ちなみに、逆だったのがツラギで、ここは後のソロモン諸島の戦いまで維持されたため、
8月からのアメリカの逆襲を奇襲に近い形で受けてしまい、
日本海軍が守備する島で、最初に全滅を記録する悲劇に見舞われます。
(1942年(昭和17年)8月の段階なので、まだ玉砕という言葉は無い)

で、デボイネ島にはオーストラリア軍も駐屯しておらず、
最初から単に上陸して基地を造るだけの計画でした。
そんなあっさりした展開のためか、実は上陸の正確な日付がわかりません(笑)。
珊瑚海海戦直前の5月7日朝までには基地が活動を始めてるので、
これより前なのは確かなんですけども。

デボイネ島に関しては、ラバウルから直接向かった部隊と、
ツラギ上陸成功後、分離されてこちらに向かった部隊が別々にあり、
最終的に現地で合流しています。
一部の補給艦なども、このデボイネに入り、
後から来る艦隊への給油を予定してたらしいですが、詳細は不明。

で、最後はさらに西に進み、ニューギニア島の南岸の
ロドニーエントランスという場所にも水上機基地を造るつもりでした。
が、その前に珊瑚海海戦が発生し、ポートモレスビー上陸中止が決まったため、
ここは建設されずに終わってます。
ただし、この地名、現在の地図では確認できず、場所は戦史叢書49巻の
泣きたくなるような小さな地図から推測で入れてますので、その点はご容赦あれ。

作戦開始からわずか4日前、しかも水上機基地の建設どころか
拠点の占領から始めるって、どうなのよ、と思ってしまいますが、
それでもツラギとデボイネの基地は造られ、作戦中に活動を開始してます。
特に、ツラギはその上陸直後にUSSヨークタウンから空襲を受けながら、
その基地機能を立ち上げてますから、がんばってると言えるでしょう。

が、結果から言うと、その水上機による偵察は、実際の戦闘にはほぼ寄与せず、
さらには計画されていた九七式飛行艇(大艇)による魚雷攻撃も、
急造の基地では機材がなくて機体に魚雷を積むのに時間がかかりすぎた、
といういかにも日本海軍らしい理由で飛び立つことすら無く失敗してます。
いたずらに作戦を複雑怪奇にしたわりには、
効果はイマイチ、というのが正直なところでしょう。

ただしデボイネの基地は後に珊瑚海海戦で傷ついた祥鳳の戦闘機が
不時着したりして、意外な点で活躍するのですが…
(島に滑走路は無かったはずで海上着水後、救助されたのだと思う)


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