■空母 龍鶴(Ryukaku)登場

さて、徐々に祥鳳の最後が近づきつつあるこの連載ですが、
どうしても触れて置かねばならぬような気がする気がしなくもなくもないのが
大日本帝国海軍謹製航空母艦 龍鶴(Ryukaku)の話です。
あらかじめ断っておくと、脱線ですよ、はい(笑)。
興味深い話なのに、ほとんど日本では知られてないので、
せっかくだから書いときます。

とりあえず龍鶴(りゅうかく)って、なんだそれと思った人が4割、
そんな空母も日本にあったのか、と思った人が5割、
龍鶴の事ならオレにまかせとけ、と思った人が1割と
勝手に判断して話を進めておきますが、
結論から言ってしまうと、そんな空母は実在しません。
よって犬日本帝国海軍空母 龍鶴でも、
太日本帝帝国空母 龍鶴でも間違いではありませんワンデブ。
まあ日本語は存在しないので龍鶴でも竜鶴でもいいんですが、
ここではかっこいいので龍鶴としておきます。

ところがアメリカ側では、公式にこの空母を沈めた事になってるのです(笑)。
少なくともレキシントン艦長が提出した報告書では、
5月7日に空母 龍鶴(Ryukaku)を撃沈した、とはっきり書かれてます。

…もうわかったと思いますが、祥鳳(しょうほう)の誤認ですね。
とはいえ、いかにも実際にありそうなこの名前、どっから出て来たんだ、
と個人的に気になったので調べてみました。
りゅうかく、という音だけなら一瞬、私もそんな空母もあった気がするなあ、
と思ってしまうところですし。

ついでながら、なぜか龍鶴(Ryukaku)が出てくるのはUSSレキシントンの報告書だけで、
USSホーネット艦長の報告書には龍鶴のRの字すら出てきません。
(第17機動部隊司令官(フレッチャーだが)からの報告書には1回だけ登場)
この差は、なぜなんでしょうね(笑)。



これはUSSレキシントンの7日の戦闘報告にある、
各雷撃機からの魚雷発射位置と予想航跡を示す図です。
よく見れば上に標的 龍鶴(Ryukaku)の文字が。
ただし、さらによく見ると”?”マーク付きですから、
どうも変だぞ、と思ってた人は当時から居たんでしょう。

ついでに魚雷の平均投下距離は敵艦から700ヤード、
すなわち約640mという興味深い数字も見えてます。

この辺り、祥鳳側の戦闘詳報だとアメリカ機の雷撃距離は
平均1500〜2000m以上先で投下して逃げてしまった、と書かれてます(笑)。
が、とりあえず複数の魚雷が祥鳳に命中していたのは事実です。
さらに後で見るように祥鳳は爆撃によって大火災を起こして
その煙に包まれてしまい、戦闘中、まともに観察できたとは思い難いものがあります。
よって、この辺り、アメリカ側の数字を信用してもいい気がしますね。

話を戻しましょう。
祥鳳を誤認したのだとしても、一体、龍鶴なる名前がどこから出て来たのか。
結論から言うと、どうやら第四艦隊司令部の通信を解読した
アメリカの諜報部が産み出した想像の産物のようです。
MO作戦開始前の4月ごろ、連中が日本側の通信文を解読中、
未確認の空母が名前を伏せたまま出てく来るのを発見(祥鳳である)、
これを新型の正規空母と判断し、勝手に名前まで付けてしまったものらしいです。
(Double Edged Secrets/W.J. Holmes著による)

日本の新型正規空母なら、翔鶴(しょうかく)、瑞鶴(ずいかく)と来て、
その次は龍鶴(りゅうかく)じゃないの?と勝手に名前を付けちゃった感じでしょうか。
(飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴の共通パーツを集めて合体させた?)

とはいえこの推測は、一定の日本語の知識がないと無理なので、
暗号解読部隊に居た日系人による命名のような気がします。
(想像上の飛行生命体、という日本空母名のルールまで知らないとこの命名はできない。
そしてライシャワーによる軍に対する日本語教育の開始は
42年の春以降だから、この連中はまだ現場に投入されてないだろう)

ちなみにアメリカ側は、珊瑚海海戦の終了後まで、
祥鳳の名も、それが小型の改造空母だったとも知りませんでした。
よって珊瑚海海戦の報告書に祥鳳(Shoho)の名は全く出てきません。
そもそも最後まで自分たちが沈めたのは正規空母だ、
と思い込んでいたフシもあります。
(なぜかUSSレキシントン側にこの傾向が強い。
USSヨークタウンは冷静に小型空母のようだとのみ報告してる)

とりあえずアメリカ海軍がこの間違いを公式文章で
修正するのはだいぶ後になってからです。
私が知る限りでは、翌1943年に海軍がまとめた戦闘記述報告書、
Battle of the Coral Sea -Combat Narratives-からで、
5月7日に沈めた日本空母は祥鳳だったと後に判明した、
当時は間違えて龍鶴と呼ばれている事がある、という説明が出ています。

この辺りは珊瑚海海から一カ月後、日本側から鹵獲した書類を解読し、
アメリカ海軍としては初めて知った事実のようです。

とりあえず、海戦後しばらくの間、アメリカ側はかなり広い範囲で龍鶴(Ryukaku)の存在と
その撃沈を本気で信じていたのは間違いありませぬ。
幻の日本空母、龍鶴というとこですね。

はい、脱線はここまで。


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