■ゼロ戦とF4Fと

さて、この海戦のもう一つのポイント、日米両海軍の主力戦闘機、
ゼロ戦とF4Fの初の本格的な激突は、どちらに軍配が上がったのか、
という点も少し検討してみましょう。

その辺りをまとめたのが以下の表。
ちなみに、ここでは空戦の戦果を見るのが目的ですから、
USSレキシントンの沈没で失われた機体は損失に入れてません。

基本的に戦闘機が敵艦船の対空砲火圏内に入ることはないので、
(攻撃手段がないので近づいても意味がない。敵の迎撃機もその外に居るんだし)
戦闘機の損失はそれ以外の理由による、と見て問題ないでしょう。
とりあえず下の表では攻撃隊と、空母の護衛に当たった迎撃隊に分けてあります。

ただし、以下の全ての損失が戦闘機同士の空戦の結果とは限らない事、
(雷撃機、艦爆の後部銃座からも両軍とも驚くほど(笑)の撃墜申請が出てるのだ)
さらにTF17の攻撃隊の損失機には帰還途中で燃料不足で墜落した
機体がかなりあったはずなんですが、
アメリカ側の記録ではその数がはっきりしない事に注意が要ります。

下の表でUSSヨークタウンとUSSレキシントンの攻撃隊の損失に
?を付けたのはこのためです。
例えばヨークタウン隊のF4F 2機の損失原因は不時着水らしく
パイロットは救助された、という報告もあり、
これは空戦で撃墜されたのではなく、単なる燃料切れの可能性が残ります。

よって問題はそう単純ではないので、後でもう少し詳しく見て置きましょう。

■日本側 全損失率 2機/約5.4%
   出撃  損失   損失率
 瑞鶴 攻撃隊  9機  0機  0%
 瑞鶴 迎撃機  9機  2機  22.2%
 翔鶴 攻撃隊  9機  0機  0%
 翔鶴 迎撃機  10機  0機  0%
 
■アメリカ側  全損失 9機(推定)/約31.3% (推定)
   出撃  損失   損失率
 ヨークタウン 攻撃隊  6機  2機(?)  33.3%
 ヨークタウン 迎撃機  8機  0機  0%
 レキシントン 攻撃隊  9機  5機(?)  55.5%
 レキシントン 迎撃機  9機  2機  22.2%
 
*アメリカ側攻撃隊の損失に関する具体的な数字資料がないので、一部推測なのに注意。

まずUSSヨークタウン攻撃隊の損失2機はパイロットは救助されてるので、
撃墜墜落ではなく、母艦付近まで帰ってからの燃料不足墜落の可能性がある。

さらにUSSレキシントンは攻撃隊の9機中、最終的に7機(損失率77.8%!)のF4Fを失っているが、
実際、戦場に到達したのは6機だけだったし、その内1機は生還してる。
となると損失7機中2機は戦場にたどり着けなかった残り3機の中のものだ。
これはほぼ確実に燃料不足の墜落だろう。

よって戦闘による損失の可能性があるのは全損失7機の内5機だけで表中の数字はこれを採用した。
ただし、さらに何機かは燃料切れ墜落の可能性があるのに注意がいる。




単純に数字だけ見ると、ゼロ戦の圧勝ですね。
その損失率は約5.8倍もの差がついてます。
ただし注意点が二つあり、単純にこの数字を採用はできませぬ。
その辺りを少し見て置きましょう。

まず、先にも書いたように、アメリカ側の損失数には
空戦以外の損失、燃料不足墜落も含まれてる事。
USSレキシントンの攻撃隊が9機中7機損失、77.8%という壊滅的な損失を受けたのは
主に迷子になって燃料が足りなくなった燃料不足墜落によると見られます。
ところがその燃料不足墜落と撃墜による損失機数が不明なのです。

この辺り、戦場に到達した6機のF4Fのパイロットで
生還したのはたった1人だけらしく、他の5機の最後については
特に目撃証言も残ってないので、損失原因の判断がつきません。
とりあえず上の表ではこれを全機空戦の損失としましたが、実際はやや怪しいです。

前に書いたように、USSレキシントンでは艦内爆発によって
一時的にその艦内電源が死んでしまい、
誘導電波も航空無線も不通になっていた時間があったため、
これによって帰って来れなくなった機体がかなりあったようです。
さらにUSSレキシントン隊は経験が浅かった、というのも影響があったでしょう。

実際、USSレキシントン隊の攻撃隊指揮官が搭乗していたSBDまでもが
何度か母艦と通信を行いながら最終的に艦隊の方位がつかめず、
その後、行方不明になっており、それに誘導されていたF4Fも
運命を共にしたと思われます。

なので純粋に空戦による損失は、おそらく9機よりも少なく、
実際は5〜7機、全体の損失率は約15.6〜21.9%、
といったあたりの可能性が高い、と個人的には見ています。
まあそれでも、日本側に比べると、数倍の損失ですけども。

もう一つ、注意が要るのはアメリカ側のF4Fの損失が攻撃隊に集中してる点で、
全損失9機の内、7機が攻撃隊であり、その損失率は46.7%にもなります。
特に先に見たように、レキシントン隊の損失は特に高くなっており、
燃料不足墜落の数を考慮したとしても、やはり異常な数字です。
特に日本側攻撃隊の戦闘機損失が0なのと比べると、その差は際立ちます。

対して艦隊上空に残って日本側の攻撃を受けて立った迎撃機のF4Fは2機損失のみで、
これは約11.7%の損失率に過ぎません。
日本側も迎撃機では2機の損失を出し、損失率は約10.5%となってますから、
迎撃戦闘の損失については互角の結果だった、と見ていいのです。

よって常にF4Fが一方的にやられてるわけではなく、
艦隊護衛戦闘では、ゼロ戦とその損失率に差はありません。
全くの互角と見ていいでしょう。

となると、逆になんでアメリカの攻撃隊だけこんなに損失が高いのか、
という疑問が出てきますが、これは結果的に
戦力の逐次投入となってしまった、というのと燃料不足による墜落が多かった
といった辺りがポイントだと思われます。

そもそもUSSヨークタウン隊とUSSレキシントン隊が全くバラバラになった上、
USSレキシントン隊のF4Fの内、3機は戦場にすらたどり着けなかったわけです。
この結果、19機居た日本側の迎撃機に対し
アメリカ側は常に劣勢な数で臨む事になりました。

全機が揃ってたUSSヨークタウン隊、バラバラで到着したUSSレキシントン隊も
その数は同じで、F4Fは6機の護衛戦闘機しか無く、
常に敵に対して1/3前後の機数で戦うハメになってるのです。
これがゼロ戦に一方的に押しまくられる要因になったと思われます。

この辺りは、前日の祥鳳の迎撃戦闘機が極めて少数で、
数の劣勢からほぼ何もできないまま蹴散らされてしまったのと
状況的にはよく似てると言えるでしょう。
戦闘機の護衛も迎撃も、まとまって数が揃って無いと、
一方的に蹴散られてしまう可能性が高いようです。
それに加えて、上で見た燃料不足墜落が追い打ちをかけてるわけです。

ちなみにUSSヨークタウンの報告書では、初めての本格対戦となった
ゼロ戦に対して簡単にコメントが出ています。
それによると速度、上昇力の点でF4Fと互角であり、
このためゼロ戦はF4Fにも打ち勝てる(can outmaneuver them.)と書かれてます。
黄色いサルが飛行機を飛ばせるはずがない、と思ってたアメリカ人にしては
最大限の賛辞と見ていいでしょう(笑)。

ただしこれはあくまでゼロ戦でもF4Fに勝つこともできるぞ油断するな、
という程度の話でした。
なので十分な高度の優位を取って急降下からの攻撃をかけ、
(ゼロ戦の高高度性能の弱さがすでに気づかれていた?)
その勢いを利用して再び高度を維持するようにする事、
そして常に編隊を維持して、互いに援護できる状況にある事にさえ気を付ければ、
他は特に問題はない、と書かれております。

暗に旋回からの巴戦に入るな、と戒めてるようにも読めますが、
特にゼロ戦の格闘戦能力などにも触れてませんから、
この点は別に印象には残らなかったようです。

ちなみに既にゼロ戦には、パイロットやエンジンを守る装甲板は無い、
さらに燃料タンクの漏洩防止機構もない、とバレており、この点も指摘されてます。
多くのパイロットがゼロ戦が銃撃を受けるとすぐに火を噴くのに驚いた、
とまで書かれてますが、8日の空戦ではゼロ戦は2機しか撃墜されてませんから、
この辺りは97式艦攻と一部誤認してる可能性もありますが…。

といった辺りが、航空戦における両者の戦果です。
全体的に日本側の優勢勝ち、と言って良く、
太平洋戦争を通して、貴重な海戦と考えていいでしょう(涙)。

はい、とりあえず今回はここまで。


BACK