■USSレキシントンの経験不足とMe109

さて、今回はアメリカの疑似第二波攻撃(笑)、USSレキシントン隊の攻撃を見て置きます。
USSヨークタウン隊に比べ、やや経験が浅かったのが、このUSSレキシントン隊でした。

このため、雲の多かった目標海域では先行したUSSヨークタウンについて行けず、
それどころか主力の一部はMO機動部隊を発見に失敗、そのまま引き返してしまい、
これがこの日のアメリカ側の攻撃を、弱体化させてしまった最大要因となります。
なので、こちらはその攻撃前の段階から、いろいろ見ておく必要があるのです。

ここでUSSレキシントン隊の構成を再度確認して置きましょう。

●USSレキシントン攻撃隊

 雷撃隊(艦攻)/VT-2

12機 

 急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2

11機

 索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2

4機+1機

 戦闘機隊/VF-2

9機

 

 計37機

ただし発艦後に雷撃機のTBDが1機、故障で引き返してしまい、
最終的に雷撃隊のVT-2は11機になってました。
それでも雷撃機が11機、艦爆は全部で16機ありますから、
日本側の空母2隻に攻撃を集中するなら、
最低限の打撃力を持っていた、と見ていいでしょう。
(艦爆の数については報告書ごとに異なる数字が出てるがもっとも矛盾が無いものを選んだ)

戦闘機の配置は、各攻撃隊に分散しており、艦攻のVT-2に対して4機、
艦爆の主力であるVB-2に3機、
指揮官機が居たVS-2に2機が配置されてます。

USSレキシントン隊でもVS-2、VB-2の両艦爆隊が
高度16000フィート(約4877m)を飛んでいたのに対し、
雷撃隊のTBDはより低高度を飛んでいます。
さらにMO機動部隊付近の海域では雲の中に入るのを避けるため、
雷撃隊は雲底より低い1300フィート(約396m)という
かなりの低高度での飛行を強いられたようです。
このため、両者は雲の切れ間から、途切れ途切れにお互いを視認する、
というのが精いっぱいとなり、その連携は難しくなってしまいます。

その上、艦爆隊の主力であるVB-2の11機のSBDは雲に紛れて
引率役のVS-2を見失ってしまい、
以後、接触を保つことに失敗してしまうのです。
この結果、VB-2の11機の艦爆は独力ではMO機動部隊を発見できず、
結局、攻撃に全く参加することなく、母艦に引き返してしまいます。
この結果、USSレキシントン隊の艦爆隊の戦力は当初の約1/3、
VS-2のSBDの5機だけとなってしまいます。
その打撃力は激減した、といっていいでしょう。

4000m近く低い高度を飛んでいた雷撃隊のVT-2隊が、上空のVS-2隊を見失う、
というなら話もわかるんですが、ほぼ同じような高度を飛んでいたはずの
艦爆のVB-2が、なぜ誘導するVS-2隊を見失ってしまったのかは、どうもよくわかりません。
アメリカの艦載機の場合、音声通話が可能な機載無線があり、
実際、これを使っての呼び出しもやってるんですが…。

この辺りは都合の悪い事はあまり書かない、というのは日米共通の現象なので(笑)、
報告書でもあまりキチンと説明されてなかったりして、どうも謎ですね。

でもって当然、その迷子のVB-2に付いていた護衛の戦闘機、F4Fの3機も
戦場に到達できなかったわけで、この結果、
護衛戦闘機も全部で6機にまで減ってしまうのです。
まあ、踏んだり蹴ったりですね。

このため、USSレキシントン隊は、
USSヨークタウン隊に遅れる事40分以上もかかって戦域に到着して
その連続攻撃に失敗しただけでなく(戦力の逐次投入になった)、
さらには主力の爆撃隊が行方不明と
君らは一体何やってるんだ、という感じとなります。

まあ、おそらく経験不足だったんでしょう。
それでも、最古参の正規空母の航空隊なんだから、
もう少しキチンと訓練しておいてもよかったんじゃないか、と思いますが…。

ちなみに、そんなUSSレキシントン隊の未熟ぶりを最も象徴するのが、
彼らの報告書におけるMe109の存在です。
…Me109(笑)?ええ、Me109、又の名をBf109。

USSヨークタウン隊の報告書には無く、
USSレキシントン隊の報告書にだけ見られる特徴として、
実は多数のMe109の目撃証言があります。
ええ、あのドイツ空軍の主力戦闘機1号、メッサーシュミットのあれです(笑)。
これの目撃報告がUSSレキシントンの報告書には
何度も登場するのです。

なんだそりゃ、という感じですが、
この辺りは当時のアメリカの人種差別感を知る必要があります。
アメリカは1950年代のピークを迎えるまで、
人種差別の総本山のような国でした。
そのあまりにヒドイ黒人差別に対し、50年代から黒人の公民権運動がおこり、
これが60年代から70年代のアメリカ絶望時代のキッカケの一つとなりました。

その差別思想の基本は白人至上主義であり
(さらにはアングロサクソンなどゲルマン由来系優位で
元からヨーロッパに居たラテン、スラブ系を低く見る。
ユダヤ系も同じだが、連中には金の力があった)
当然、黄色い東洋人も連中から見れば人類のオマケみたいなものでした。

よって日本の航空機は全ゲルマン民族の手によるドイツ製で、ドイツ人のパイロットが
派遣されて戦ってるのだ、黄色いサルが航空機の操縦なんてできるわけないし、
ましてや航空機の製造なんてできるわけが無い、と
本気で考えてる連中がいくらでもいたのです。

この結果、アメリカ軍内部でも広く日本がアメリカ軍と互角以上の戦いをしてるのは
(1942年秋までの話だが…)
ドイツから人的支援を受けてるからだ、という考えが根付いてました。

この結果、連中の報告書に、ドイツから応援に来てる(笑)
Me109を俺はこの目で見た、それどころか撃墜までした(大笑)、
という報告が次々と登場する事になります。

アホだなあ、という他ないのですが、これが不思議とUSSレキシントン側にのみ見られ、
USSヨークタウンの報告書には全く見られません。
このあたり、例の7日の航跡図の適当ぶり、さらに祥鳳の写真を見て、
あれこそ新空母 龍鶴(笑)に間違いない、と断言するいい加減さと、
どうもUSSレキシントンの報告書は全体的に内容がお粗末ですね…。

 

皆さんおなじみのMe109は液冷エンジンですから巨大なプロペラスピナーの付いた丸い機首が特徴で、
さらにエンジンの入った機首部は主翼から大きく前に突き出してます。

その上、ファストバックで後部が見えないコクピット、小さな主翼、小さな垂直尾翼に
その途中から飛びだしてる水平尾翼、さらに後輪は出しっぱなしと、
まあゼロ戦とは似ても似つかない機体なわけです。



こんな感じでゼロ戦とは完全にシルエットからして異なり、さすがにこれを見間違えました、
というのはあまりに問題ありでしょう。
人は見たいものしか見ない、というのと同時に、そこにあるはずと思い込んでいたものを見てしまう、
という傾向もあるんでしょうね。




そんなUSSレキシントンの報告書では、MO機動部隊攻撃時、逆にTF17護衛の迎撃時にも、
パイロットからMe109の目撃報告があがってます(笑)。
…どうしてまた400q以上離れた敵空母の攻撃において、航続距離の短さが弱点の
Me109が飛んで来れると思ったんだ、USSレキシントンの皆さん…。

さらにMO機動部隊に対する攻撃時には、敵のゼロ戦とMe109が迎撃して来た、
とわざわざ名指してるので、キチンとゼロ戦とは別の機体として認識したようです。
ただし、この日のMO機動部隊上空にはゼロ戦以外、艦爆、艦攻すら飛んでませんから、
一体全体、何を見間違えたのやら…。

ちなみにその“戦果”は、艦隊防衛戦の時にMe109を1機撃墜、
1機不確実ながら撃墜としており、一応、アメリカの公式記録では、
Me109は太平洋戦線でもアメリカ海軍によって撃墜された事になってます(笑)。


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