■アメリカ人の絵心について

では、そのUSSヨークタウン隊の攻撃時における
日本側の状況を確認して置きます。

今回からはアメリカ側の報告書にある図を引用しますが、
既に見た日本側の図に比べ、はるかに絵心あふれるものとなっており、
報告書における画力に関していえばアメリカ側の圧勝となってます(笑)。

下の図は、それに日本語訳をつけたもの。
ついでに、この海戦で重要な役割を果たす
大きな積雲(いわゆる綿雲でこれが発展すると積乱雲になる)の位置を
ハッキリさせるため、海の部分に色を付けておきました。
とりあえず、これで攻撃時のMO機動部隊の配置を確認しましょう。
ちなみにこの図はキチンと北が上になってます。

図中で、黒い実線で描かれた日本側の艦は
10時40分前後の現在位置を示します。


とりあえず、今回は大雑把な流れだけを確認して置きましょう。

一目で判るアメリカ側との違いは、瑞鶴、翔鶴が全く別々に行動してる事で、
接触した時点で既に8q前後の距離が開いてました。
攻撃に入った後はさらに距離が広がって15q以上になったとされます。
差が広がったのは翔鶴が艦載機発進、そして近くの雲の下に逃げようとしたため、
南東に変針した結果で、この後、距離はさらに開く事になります。

15q以上の距離だと、相手は水平線の向こう側に入ってしまい、
艦橋上など水面から15m以上の高さがないと、
お互いが視認できませんから、完全に分離していたと見ていいでしょう。

このため両艦を中心に別々に円陣形がとられてますが、
この分裂は対空砲火を担当する護衛艦の分散を意味します。
よってアメリカ側が言う、護衛艦同士の連携距離が遠くて、
その対空砲火はさほど脅威とならなかった、という話は、
この辺りからも裏付けられてると思われます。

ただでさえ、アメリが艦隊に比べて護衛艦が少ないのに、
なんでまたこんな分散をやったのか理解できません…。
そもそもMO機動部隊司令部からは、陣形について
まともな指示が最後まで出なかった、という証言もあるようで、
要するに何も考えてなかっただけ…?

さらに日本側の針路が南西に向いてる事に注意が要るでしょう。
航跡図(合戦図)を見ると、攻撃を受ける直前に南西に針路を変えてるので、
その通りなんですが、この変針の理由が例によって全く判りません(涙)…。
この段階だとまだ翔鶴、瑞鶴ともに護衛の戦闘機を全機発進させておらず、
風向きと反対の南西方向に変針するのは、その発艦を不可能にする、
すなわち自分の首を絞める以外の何物でもないはずです。

実際、翔鶴はその最後のゼロ戦2機の発艦のため、
敵の攻撃が始まる前からすでに南東に変針する事になります。
この段階だと日本側はアメリカ攻撃隊を発見してない可能性が高いですが、
これが結果的にアメリカの攻撃隊の接近方向に向かう形となり、
このため翔鶴がその集中攻撃を受ける事になります。
ホントによくわかりませんね、この海戦におけるMO機動部隊司令部の考え…。

ちなみに、アメリカ側のこの図だと、瑞鶴はずっと離れた位置を直進して
そのままスコールの雨雲の中に逃げ込んだ事になってますが、
瑞鶴側の記録では、翔鶴が爆撃を受ける直前、
10:57に最後の護衛戦闘機4機を発艦させてます。

なので、雲の下に逃げ込む直前に、ぐるっと回転するように変針、
針路を一時的に風上に向けてるはずです。
アメリカ側は翔鶴側に集中してたように見えるので、
この点を見落としたのでしょうか。

ついでに翔鶴も攻撃を受けた後はこんな単純な航跡ではなく、
円型の針路で回避をしていたはず。
(後で見るように輪を描きながら回避してる写真が残ってる)

そして攻撃するアメリカ側は南〜南東から
MO機動部隊に接近する形になりました。
ただし低空から雲に隠れ、遅れて入って来た雷撃隊を待ったため、
急降下爆撃隊(VB)と索敵爆撃隊(VS)はしばらく艦隊の南東側で
旋回しながらこれを待ったとされます。

攻撃終了後、雷撃機後は
そのまま反転して雲の中に逃げ込んでしまったのですが、
急降下&索敵爆撃部隊は離脱後に北西に向かい、
そちらにあった雲の中に逃げ込んだようです。

そして翔鶴がこのUSSヨークタウン隊の集中攻撃を受けてる間、
先行していた瑞鶴はスコールの雲に逃げ込んでしまい、
これによってUSSヨークタウン攻撃隊は、一切攻撃できなくなってしまいます。
それに加えて、アメリカ側から見て翔鶴が手前に位置していたので、
こちらが集中攻撃を受けるハメに陥ったわけです。

ただし、この図を見る限り、瑞鶴は艦爆、艦攻ともに攻撃を受けてないはずですが、
瑞鶴の戦闘詳報には、この後、2回に渡って攻撃を受けた、との記録があります。
少なくともUSSヨークタウンの報告書を見る限り、最初の攻撃では
一切、瑞鶴に手を出してないんですが、何を見間違えたんでしょうね、これ…

といった辺りが第一次攻撃、というかUSSヨークタウン隊による
攻撃の大筋の流れとなります。
次回はこれをもう少し詳しく見てゆきましょう。


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