■アメリカ側の攻撃

さて、日本のMO機動部隊発見の報を索敵機から受けたTF17では、
9:01ごろから、この日の主攻撃担当のUSSヨークタウン攻撃隊の発艦が始まります。
その後、約10分前後遅れて、朝の索敵担当艦だった
USSレキシントンからも攻撃隊が出撃し始めました。
念のため、再度この朝の攻撃隊の構成を確認すると以下の通りで全部で76機。

ちなみにUSSレキシントンの艦爆の+1機は例の指揮官機。
ついでに索敵機と艦隊護衛(涙)に多くの機数が取られてしまい、
大幅に打撃力が落ちていた急降下爆撃&索敵爆撃機のSBDですが、
今回はUSSヨークタウン、USSレキシントン両部隊とも
全機、大型の1000ポンド爆弾(453.5kg)装備だったようです。

注目は戦闘機の数で、日本側の艦隊護衛戦闘機が19機だったのに対し、
アメリカの攻撃隊は全部で15機のみ、さらに両艦の航空隊が別々に行動したため、
その戦力は分散されてしまい、より不利な状況に追い込まれる事になります。

●USSヨークタウン

 雷撃隊(艦攻)/VT-5

9機

 急降下爆撃隊(艦爆)/VB-5

17機

 索敵爆撃隊(艦爆)/VS-5

7機

 戦闘機隊/VF-42

6機

 

 計39機



●USSレキシントン

 雷撃隊(艦攻)/VT-2

12機 

 急降下爆撃隊(艦爆)/VB-2

11機

 索敵爆撃隊(艦爆)/VS-2

4機+1機

 戦闘機隊/VF-2

9機

 

 計37機



最終的に9:20頃には全機の発艦が終了、両艦の攻撃隊は
10〜15分の時間差で出撃したことになりました。
理屈の上では前日の祥鳳攻撃のように、
先に出撃したUSSヨークタウン攻撃隊の攻撃が終わるころ、
ちょうどいいタイミングでUSSレキシントン攻撃隊が到着する事になるはずです。

ところが、現実には両者の目標到着は40分以上の時間差が開いてしまい、
その結果、それぞれが個別に攻撃を行う事態となります。
当然、艦爆、雷撃の連携は薄くなり、その戦果は期待しにくい上、
護衛戦闘機も分散してしまったので、攻撃隊の援護にも不安が出る、などなど
ロクな事がない状況に追い込まれるのです。

ちなみにこの点はアメリカ側の最大の反省点だと思うんですが、
あまり気にしていた様子がなく(笑)、ミッドウェイ海戦でも全く同じ戦法で、
全く同じような失敗をやってます。
もっともこちらは、最後の最後に幸運が味方して大逆転となるんですが…。

では、まずは先行して出撃したUSSヨークタウン隊の状況から見てゆきましょう。
急降下爆撃&索敵爆撃隊と護衛の戦闘機は高度17000フィート(約5182m)と
日本の攻撃隊よりやや高い高度で飛行していましたが、
その下に居た雷撃隊の進出高度は資料がなし。

とりあえず先行したUSSヨークタウンの攻撃隊の進撃は特に問題が無く、
発艦から約1時間30分後の10:32ごろ、
まず急降下爆撃隊が早くも日本の空母機動部隊を発見します。
ヨークタウン隊は、この時点でもっとも経験豊かな
アメリカ側の空母攻撃部隊ですから、この辺りはさすが、という所でしょうか。
ただし、雷撃隊がやや遅れて飛んでいたため、これを待ってからの攻撃開始となり、
艦爆と、その護衛戦闘機はしばらく上空で
輪を描きながら待機飛行する事になります。

対して日本側の敵機発見は10:53ごろからなので、
上空のアメリカ攻撃隊の方が20分近く早く、相手を発見していたわけです。
多少の時間誤差がある可能性は考えられますが、
少なくとも攻撃するアメリカ側が先に発見していたのは間違いないと思われます。

ここら辺りは対空警戒レーダーが無い不利もありますが、
日本側の艦隊が居た海域の雲が多い空は艦上から
上空の攻撃隊を発見するのが思った以上に難しかったのかもしれません。



■Image credits:
Official U.S. Navy Photograph, now in the collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-17125


低空から接近するUSSヨークタウンの雷撃隊(VT-5)から撮影された翔鶴。
手前に見えてるのはTBDの尾翼で後部座席から後ろ向きに撮影したもの。

画面左上に見えてるのが翔鶴で、航跡から大きく右回頭中なのがわかり、
すでに攻撃を受け始めた後の撮影と思われます。
周辺に見えてる黒いシミのようなものは対空砲弾の炸裂で、すでに弾幕が展開されてるわけです。
USSヨークタウンの報告書によると、対空砲火は急降下爆撃機よりも
雷撃機に集中した、との事で、実際、この写真でも低空での対空砲火の激しさがわかります。

ただし、翔鶴の周りに一隻の護衛艦すら見えないのも要注意で、前日の祥鳳に続いて、
どうも日本側の対空陣形はかなりスキだらけで、ザルな感じがありますね。
(右奥に航跡らしいものが見えてるが、艦影が確認できない)
この点はアメリカ側の報告でも、艦と艦の距離が離れていたため、
空母に接近するのに、その対空砲火はあまり脅威とならなかったと報告されてます。
(ただし、別の報告書では接近後、攻撃態勢に入ってからの対空砲火は熾烈だったとされる)

空が曇りがちな事、海面にかなりの白波が見えて相当風が強い事、などにも注目して下さい。
雲が多い、という事は攻撃側はいざとなったらそこに逃げ込めること(見えなくなれば撃たれない)、
風が強い、という事は急降下爆撃では爆弾が流れて当たりにくい事を意味します。





さて、これを迎撃するべく待ち構えていた
日本側のゼロ戦の状況を見て置きましょう。
上空に居たのが瑞鶴隊3機、翔鶴隊9機の計12機。
(ただし翔鶴から最後に発艦した第四小隊2機は9:45前後、
攻撃開始10分前ごろの出撃と見られ、
果たして敵が攻撃位置につく前に十分な高度がとれたか微妙なところ)

それに加えて、なぜかこの攻撃直前に着艦してしまっていた
瑞鶴の7機が艦上にて待機中でした。
その内、アメリカ側の攻撃開始直前、2〜3分前に4機だけが発艦してますが、
残りの3機は以前に見たように故障機が飛行甲板を塞いでしまったため、
最後まで発進できませんでした。
少なくともこの7機は敵の攻撃前にこれを防ぐ、という点では
全く貢献してないと見ていいでしょう。

余談ですが瑞鶴が珊瑚海海戦時に搭載してたゼロ戦は、
主翼の翼端が四角い32型だったとする証言があるんですが、
この点の裏を取る事ができなかったので、そういった話もあるよ、としておきます。

ちなみにゼロ戦の連合軍側の呼称はZekeなんですが、
32型だけは別にHap/Hampという呼称がありました。
このため、アメリカ側は別の機体だと思っていた、と説明される事がありますが、
連合軍側の日本機識別表では、Hampはゼロ戦の2型(Mk-2)と書かれており
キチンとゼロ戦の新型と知っておりますね。
以上、脱線でした。

さて、雲が多くて艦上からは敵の接近に気が付くのが遅れた、
というのは既に書いたのですが、実はここでさらに混乱がありました(涙)。
第七駆逐艦隊の戦闘詳報を見ると、敵発見の10分以上前である
10時43分に右90度の方向に敵3機を見ゆ、と書かれた後に、
この時、駆逐艦 潮が砲撃したのは友軍機だった、という記述があります。

他の記録に一切記述が無いのですが、どうもこれ、またも周囲の護衛戦闘機を
敵部隊と誤認、砲撃してしまったものらしいです。

ちなみにこの砲撃、上空の友軍機に敵の接近を知らせるためだった、
と解説されてる事がありますが、第七駆逐艦隊の戦闘詳報に
はっきりと友軍機を砲撃、と書かれてるので、間違いなく誤認による砲撃です。
そもそも、敵は左舷から接近してたので、右方向に撃っても意味がありません。

どうもこの辺り、全体に記述が怪しく、なにか敵襲直前に混乱があり、
これが瑞鶴の最後の7機の発艦が攻撃直前までかかってしまった一因じゃないか、
と思うのですが、例によって都合の悪い事は戦闘詳報に書かれてないので、詳細は不明。
前日の祥鳳と言い、どうも日本側の迎撃直前の状況は謎が多いですね…。

とりあえず、その誤認による砲撃の約10分後、10:54に改めて
第七駆逐艦隊は左70度方向に敵20機を発見、直後に戦闘旗を掲揚し、
対空戦闘に入ったと記録されてます。
瑞鶴の記録だとその4分後の10:58から対空砲撃開始となってますが、
後で見るように敵の攻撃隊から見ると、翔鶴が手前、瑞鶴が奥に位置していたため、
攻撃開始時に時間差が出たのでしょう。


NEXT