■申告と現実と

さて、今回で最終回のこの連載ですが、最後の最後に
8日の空戦における「本人の主張」と「現実の戦果」の差を見て置きましょう。
何度か指摘してるように、自己申告による戦果報告は
大抵、数倍以上というかなりの誤差を持ちます。
艦船に対する報告の日米の誇張ぶりは既に見ましたが、
航空戦ではどうだったのか。

まずは日本側から、その撃墜数の報告を。
ただしこの辺りの数字は資料ごとに異なったりするので、
日本側ではパイロットから直接申告を受けてる
飛行機隊の行動調書の数字を採用します。
アメリカ側はUSSレキシントン隊の記録が例によっていい加減なんですが、
とりあえず、もっとも可能性が高いと思われる数字を拾ってます。
また、アメリカ側の損失は、先にも書いたように
燃料切れ墜落の数がはっきりしないので、あくまで考えられる最大数、となります。

そしてもう一つ、これらは全ての撃墜数なので、
艦隊の対空砲火によるものも含んでしまってます。
なので、実際に空中戦で落とされた機体はもっと少ないでしょう。

それらを踏まえた上で数字を挙げると、以下の通り。


■翔鶴隊

 機種  撃墜申告数
 艦戦(ゼロ戦)  29機
 艦爆(99式艦爆)  7機
 艦攻(97式艦攻)  0機
 攻撃隊合計  36機
 艦戦(ゼロ戦) 艦隊護衛隊  17機


■瑞鶴隊

 機種  撃墜申告数
 艦戦(ゼロ戦)  26機
 艦爆(99式艦爆)  4機
 艦攻(97式艦攻)  0機
 攻撃隊合計  30機
 艦戦(ゼロ戦) 艦隊護衛隊  22機

日本側の主張する撃墜数

■攻撃隊 計66機
■艦隊護衛隊 計39機

実際のアメリカ側の損害。

■攻撃隊(TF17艦隊護衛隊) 計7機(日本側の主張の約1/9.4)
■艦隊護衛隊(TF17攻撃隊) 計15機(日本側の主張の約1/2.6)



■USSレキシントン隊

 機種  撃墜申告数
 艦戦(F4F)  3機
 艦爆(VB&VS /SBD)  0機
 艦攻(TBD)  2機
 攻撃隊合計  5機
 艦戦(F4F)&艦爆(SBD) 艦隊護衛隊  15機


■USSヨークタウン隊

 機種  撃墜申告数
 艦戦(F4F)  3機
 艦爆(SBD)  12機
 艦攻(TBD)  0機
 攻撃隊合計  15機
 艦戦(F4F)&艦爆(SBD) 艦隊護衛隊  7機

アメリカ側の主張する撃墜数

■攻撃隊 計20機
■艦隊護衛隊 計22機

実際の日本側の損害

■攻撃隊(五航戦艦隊護衛隊) 計2機(アメリカ側の主張の1/10)
■艦隊護衛隊(五航戦攻撃隊) 計17機(アメリカ側の主張の約1/1.3)




といった感じで全ての撃墜申請が、やはり実際の数より多くなってるわけです(笑)。
ここで興味深いのは、艦隊護衛部隊の撃墜申請数は、日本側2.6倍、
アメリカ側1.3倍と、ある程度許容範囲(?)の肥大化なのに対し、
攻撃隊、敵の艦隊まで出かけていった連中の報告は、
日米ともに10倍近い、あまりに適当な(笑)数字になってる点です。

おそらく母艦の艦隊防衛の場合、下で戦闘を見てる連中が居ますから、
あまり適当なウソをついてもすぐばれるのに対し、
目撃者不在の敵艦隊攻撃隊は、ある意味、言ったもの勝ち、
という面があったのかなあ、という事でしょうか。

両者でここまで差が付くとは思ってなかったので、
このデータには正直、私も驚いてます。
まあ、比較的正確な数字、といっても
日本側では2.6倍、実際は対空砲火で落とされた機体もあったでしょうから、
もっと大きな誇張が入ってるわけですが…。

といった感じで、やはり戦果報告は、両軍の資料を突き合わせないと、
何の参考にもならない、最大で10倍もの誤差があるよ、というお話でした。


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