■ドイツ対空砲陣地

今回はまずドイツ重対空砲部隊における実際の配備状態を見て置きましょう。
いかに正確な照準で大量の砲弾をばら撒くか、が対空砲運用のテーマですから、それに対応した配備となってます。この辺りもまたドイツ空軍に関する古典的資料「The Luftwaffe Data Book」に詳しい記述があるのでそこから引用しましょう。

とりあえず代表的な例、1942年前半から火力を集中するために採用された、Grossbatterie(読めません…辞書にも出てません…)配置を見ておきましょう。これは図のように射撃指揮所を中心に、3個(2個の場合もあり)の砲兵中隊が配置されたもので1942年以降は、基本的にこのGrossbatterie と呼ばれる単位で対空砲部隊は配備され、爆撃目標となりやすい重要目標をぐるりと円形に取り囲むように陣地が築かれました。

中央の射撃指揮所にはヴュルツブルク レーダーと射撃管制装置が置かれており、指揮官もここに居ます。全ての砲はこの射撃指揮所の照準算定機がはじき出した数値に従って、同じ1機の敵に対して一斉に集中砲火を浴びせる事になるのです。



1941年末以前は1中隊は4門で運用されていたのですが実戦データから火力の強化の必要が認識され、1942年以降、各6門に強化されたものです。さらにそれでもまだ不十分、という事で最終的には8門まで強化されて行きます。

中隊の8.8cm Flak 計6門ははほぼ30m前後の距離を置いて円形に設置されたようですが、五角形に配置してその中央にもう1門を置く、といったタイプもありました。射撃指揮所から各中隊までは約250mの距離がありますから、半径250mの円内に3つの砲兵中隊が配置されてる、と考えてください。
ただし、配置される地区の地形によって必ずしもこの距離が取れない事もあり、絶対的なものでは無いようです。

連合軍の爆撃機は目的直前から爆撃ルートに入り、その後は爆撃照準装置の関係で直線飛行しかできなくなります。さらに速度もやや落とすため、ここを狙ってこれらの陣地は重要目標から4〜6q前後に配備されていたようです。ただし後に連合軍側も安全確保のため徐々に爆撃時の速度を上げていったようで、それにつれて目標からの設置距離は離れて行ってます。
この単位で射撃管制所から示された一つの機体に対して一斉に射撃するわけですから、一度に18発の弾が飛んで行く事になり8.8cm Flakの36/37型では1分間に15発(4秒に1発)撃てたので、1分以上敵が射程内に居てくれれば、18×15で最大270発の弾が敵機に殺到する事になるわけです。

3343発で1機撃墜という例のデータからすると、12分間撃ち続けてればいずれ1機撃墜の可能性あり、なのです。前回すでに見たように爆撃機が射程範囲内に留まってくれる時間は最大で4分前後ですから、これではやや厳しいものがあります。このため、6門でも不十分と判断され、最終的に中隊あたり8門まで強化されました。
それでも24×15で1分間に360発、9分程度の連続射撃が必要となり、どうもあまり効率のよくないシステムのように思われますが、連合軍にとって一定以上の脅威だったというのは既に見た通りです。

次にこのシステムの心臓部、射撃指揮所の内容を見ておきましょう。ただし、時期と地域によっていろいろバリエーションがあったようで、以下で説明するのは、あくまで“代表的な”配置例です。
ここは地面を掘り下げて周囲に土の壁を築いた状態、つまり一種の塹壕に入った形で設置されており、直撃で爆弾を食らわない限り、簡単にはやられない構造になってます。この点は、各8.8cmFlak も同じで、全ての砲は地面を掘って周囲を木材で補強された塹壕状態の陣地から運用されました。

このため真上からの直撃弾以外の攻撃でこれを殲滅するのは極めて難しく、連合軍の悩みの種となって行きます。射撃指揮所の場合、重要かつ高価な機材が集中してましたから、なおさら、防御は堅固になっていたようです。




射撃指揮所全体は、だいたい40m前後の正方形の陣地となっており、中央に指揮官がいる指揮所がありました。赤い線は連絡用の通路で、これはさらに地面を掘って造ってあり、塹壕の連絡路のような構造になっていたようです。

下から見て行くと、まず発電機が2機あるのは予備という意味と、どうも1機では全電力を維持するには足りなかったから、という面とがあったようです。
射撃管制用のヴュルツブルグレーダーも陣地内に設置されており、これも2基ずつ配備されていました。こちらが2基あるのは予備ではなく、1基のレーダーで追跡できる目標は一つだけだったための対処でした。まず1基で現在の射撃目標を追尾し、2基目はそれが砲の射程外に出た後に射撃する次の目標をあらかじめ追尾しておくのに使用しました。こうして次の射撃に必要な諸元をあらかじめ計算しておきます。こうすることで途切れずに、次から次に目標を砲撃できたわけです。

その諸元の計算を行う射撃算定機は3機設置されてますが、このうち、1機は予備のようです。この予備の3番機は他の2機が被害を受けても生き残れるように、やや離れた場所に置かれていました。そして残りの2機で、上に書いたような現在砲撃中の目標への射撃データ算定、そして次の目標の射撃データ算定を並行して行っていた事になります。
この合理的に洗練されたレーダー誘導による対空砲火陣地により、連合軍の戦略爆撃機は昼夜を問わず、その脅威にさらされて行くことになるのです。



■ドイツの対空砲部隊が照準算定機に当時最新の機械式計算機(アナログコンピュータ)まで投入していたのは、
それだけやっかいな計算が対空砲の運用には必要だったからでした。

写真はそんな機械式のアナログコンピュータが使えない野戦部隊などが利用していた対空砲撃用の計算尺。
一般的な計算尺といえばスライド式の定規みたいなものですが、
対空砲の照準を付けるために必要なデータを取るには、こんな複雑な構造の計算尺が必要だったのです。
正直、どうやって使うのかすら、全く見当がつきません…。

ちなみに上に見えてるのは20o対空砲弾。


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