■無尾翼デルタ機の例外

ただし無尾翼デルタなら皆同じでは無い、という点も最後に確認しておきましょう。



無尾翼デルタ大好きなヨーロッパの皆さんがつくる戦闘機も空気取り入れ口の上にヒサシが付いてます。
写真はユーロファイター タイフーン(先行生産型)で、この機体ではF-16と同じく機首部がその役割を担います。



おフランス製の無尾翼デルタ戦闘機 ダッソー ラファール。ただし写真はル・ブルージュの航空宇宙博物館で展示中の試作型の機体。
カナード(前部小翼)の取り付け部を外側に引っ張り出し、さらに境界層分離板で空気取り入れ口を上から覆って高迎え角時の気流を制御しているのが判るかと。

ただしこれらの戦闘機のように、デルタ翼の直前位置にカナードがあると、LERXと同じ効果、高迎え角時に渦を生み出し主翼に揚力を与える事が出来ます。よって離陸時に強い迎え角を取る必要はそれほど無く、この場合は高機動が必須の戦闘機ゆえの構造なのだ、と思ってください。

 

そして先にも述べたように、通常の機体でも無尾翼デルタでも大出力エンジン以外なら問題ない点は共通です。

イギリスのグロスター ジャベリンは無尾翼デルタでアフターバーナー付エンジン搭載ですが空気取り入れ口のヒサシはありません。これはエンジンが非力であり(出力55 kNでF-100エンジンの半分以下)、音速飛行も不可能だったからで、その程度の性能なら、高迎え角時の空気流入量不足を心配する必要は無いのです。

ちなみにこの機体の場合、無茶苦茶に巨大な垂直尾翼、戦闘機とは思えぬ分厚い主翼、着陸の時だけ使う主翼下中心部近くにあるエアブレーキ兼フラップなど、極めて変な機体となっています。燃料と武装を積むには分厚いデルタがいいと考えたんでしょうが、引き換えに失うものが多すぎるように思いますね。

 

スウェーデン産の新世代戦闘機、グリペンにも空気取り入れ口の上にヒサシ類がありません。
その代わり、開口部をやや複雑な形に斜めに切リ取ってに対策としています。正直、あまり効果的とは思えないのですが、やや非力な単発エンジン(アフターバーナー点火で約80kN)ですから、これでもなんとかなるんでしょうか。
なんとかならなかった場合、極めて悲惨な事になるわけですが…

この機体もカナードを持つので、離着陸時にそこまで強い迎え角は要らないものの、それでも戦闘機ですからねえ…。



そしてアメリカの無尾翼大好き、コンベア社の機体もいろいろと変だったりします。

まずはセンチュリーシリーズの迎撃戦闘機F-106。失敗作のF-102からパワーアップしたエンジンでアフターバーナー点火時に109kNと強力になったのに空気取り入れ口には何の工夫も無いのです。

この機体も戦略爆撃の迎撃用なので直線番長であり、それほどの高機動性能は要らなかったはずですが、それにしてもなあ、という部分があります。単発エンジンに対して二つの空気取り入れ口、さらに任務の特性上、機体重量も軽かったので何とかなったんでしょうかね(通常は増槽無し(長距離の基地間移動時のみ利用)、任務上爆装も無いので最大離陸重量でも約19t前後。同じセンチュリーシリーズでほぼ同じエンジンのF-105の約23.5tより約2割軽い。ただし乾燥重量ではF-105が1トン重いだけであくまで装備の差)。

ちなみに正面から見るとやや斜めに傾く形で空気取り入れ口が取り付けられたのがその対策、という話もあるんですが、あまり対策にはなってないように思いまする。



そしてこれもコンベア社謹製の超音速爆撃機B-58。これのエンジンはファントムIIと同じJ79でやや非力なため、一見すると無対策に見えます。

が、実は主翼が最初から斜めに取り付けられている、という変な機体で、すなわち地上駐機姿勢ですでに主翼は一定の迎え角を持ってしまってるのです。この結果、滑走してるだけで一定の迎え角を持つため、他の無尾翼デルタ機に比べるとやや控えめな迎え角で離陸できたのでした。この機体の飛行姿勢が妙に猫背で変な感じなのはこれが原因です。

■その他の機体の場合

 

でもって最後に、どうもよく判らいないB-1爆撃機を。B-1Bでは性能が落ちたとはいえ一応アフターバーナー付エンジンの遷音速機ですが(マッハ1.2前後まで)、主翼はデルタ翼ではなく、離着陸時に十分な揚力を稼げる可変翼です。



が、そのエンジンは主翼付け根下に置かれ、これまでに見てきたような高迎え角対策がなされてます。

この機体も離陸にアフターバーナーを使うので確かに離陸時には膨大な大気の流量が必要です(無くても離陸できそうな気もするが滑走距離の問題があるのだろう)。それでも可変翼ですから旅客機のように緩やかに浮き上がって飛んでゆきます。よって高迎え角対策が必要とは思えないのですが…。

初代B-1Aの機体の場合、当初は敵地に超音速で突入し、敵戦闘機もSAM(地対空ミサイル)も振り切って逃げる、的な設計思想がありました。よって結構派手な機動を前提としていたのかもしれません。

が、私の知る限りその後、再設計されたB-1Bの許容旋回負荷は3G前後までなので、到底、戦闘機やミサイル相手に大立ち回りは出来ないはず。まあ翼内燃料タンクに燃料が残ってると2.2G以上の旋回ができない(笑)、超直線番長のMig-25相手ならなんとかなるでしょうが、それでもミサイル撃たれたらお終いですからね…。

冷戦時代の設計ですから、敵の核攻撃で破壊された滑走路から短距離で、高迎え角の急上昇発進を想定していたのか、とも思いますがどうもよく判らない、というのが正直な所。

とりあえず、この点は謎として置いておき(手抜き)、今回はこれまで。

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