■ロシアンステルス

2021年7月、ロシアの航空機展示会、MAKS2021(ロシア語表記ではMAKC2021)でスホーイは現在開発中の廉価版ステルス戦闘機を初公開しました。

その名もCheckmate(ただし仮称)、日本語にすると王手であり、なんだか昭和の大阪新世界を舞台に賭け将棋屋で戦っていた棋士を思わせる名称を持つ新型戦闘機となっています。

ちなみにロシアのほとんどの航空機製造会社は2016年、プーチン大統領の鶴の一声の下に結成されたJoint stock companyであるUnited Aircraft Corporation 、通称UACには統合させられてしまってます。Joint stock company、合同株式会社とでも言うべき会社形態は日本には無いので説明が難しいのですが、大規模で構成の自由度が高い株式会社だと思っておいてください。ただしロシアのUACの実態は持ち株会社に近いようですが、詳しくは調べた事が無いので、この話はここまで。

スホーイ(Sukhoi/Сухой)は現在、その会社の一部門なんですが、ブランドとしてはまだ存属してますし、会社組織としても独自の経営責任者(Chairman of the Board of Directors)を持ちますので、この記事では従来通りにスホーイのままとしておきます。ちなみにライバルも言えるミグ(MiG/МиГ)も現在はUAC傘下になっています。どうもアメリカの自動車会社のように、GMの中にシボレーやキャデラックが併存してるのに似てる気もしますね。

ついでに機体の開発はスホーイ単独ではなく、ロシアの兵器製造会社であるロステック(Rostec)も関係してるようなんですが、詳細は不明です。



■Photo MAKS 2021 Website


2021年7月のMAKS2021で初公開されたチェックメイト。

実機制作前の原寸大モックアップ、あるいは一部にのみ実際の機材を使って組み上げられた細部確認用の機体のように見えますが、詳細は不明。とりあえずこの記事を書いてる2021年9月の段階ではまだ初飛行すらしてません。よって今後いろいろ変化する可能性はあるものの、基本設計は以後も踏襲されると思われます。

この機体は斬新なアイデアのカタマリなのが外見だけから読み取れる、実に興味深いものになっており、今回はそれを見て行きましょう。
初めて見た時、ああその手があったか、よくぞここまで考えたな、と感動したので、それを取り上げるわけです。
ちなみに機体設計の構造に気が付くのに掛かった時間は3秒ほと、対して説明記事執筆には結局、20時間以上掛かってしまい、自分の考えを人に伝えるのがいかに難しいかを再認識しました…。

ただし今回の記事は当然、筆者個人の推測であり、本来は別の目的だったんだけどこうなちゃっただけ、あるいは実は別の目的がある、という可能性も否定しきれないので、この点はご了承のほどを。それでも地球上なら物理法則は普遍的ですから、大筋では外してないと思います。

ちなみに当サイトを御覧の賢明なる読者諸氏は既にご町内のステルス博士としてブイブイ言わせてると思いますが、ステルスって流し台のあれ?とか思ってしまった人は念のため、こちら を読んでおいてください。

■ソ連とロシアの戦闘機設計事情

ソ連時代のミグ設計局などは、アメリカの技術を横目で見ながら、正直、ある程度まではパクってましたが、それでも常に独自の機体開発を怠ってませんでした。ある意味、その伝統の完成型とも言えるのがこの機体かもしれません。



Mig-23。
F-111、F-14でアメリカが採用した可変翼、そしてF-4ファントムII式の空気取り入れ口周りの工夫など、当時のアメリカの先端技術を取り入れながらも、ずっと軽量な機体とし、運動性を上げて一定の性能を確保しています。
この後も、F-15の設計とエネルギー機動性理論、さらにはF-16世代のLERXを取り入れながら独自の形状となったSu-27やMig-29という、アメリカ産の新技術を意識しながら独自に進化させた機体をソ連は開発し続けました。

そういった単なるパクリでは終わらせない、中華の連中とは違うのだよ、という路線の延長線状にあるのが、今回の王手さんでしょう。
その最たる部分が二枚尾翼と本当の意味のDSIをさらに発展させてしまった空気取り入れ口なのです。今回の記事ではこの点を中心に見て行くことになります。

二枚尾翼の誘惑

この機体の最大の特徴が二枚尾翼です。
正式採用予定の有人戦闘機としては初めて二枚尾翼を採用し、垂直と水平の各尾翼で三枚、あるいは垂直尾翼が二枚で計四枚という常識的な設計を捨ててしまいました。とりあえずチェックメイトを後ろから見るとこんな感じで、斜めに取り付けられた二枚尾翼となっているのが判ります。

 
■Photo MAKS 2021 Website

ちなみに、この写真だと左右に水平尾翼っぽいものがあるように見えますが、これは主翼ですね。この点は奥の鏡に映った機体後部を見てくださいませ。

この構造を見て多くの人がYF-23を連想したと思いますが、ほぼ別物です。



空軍の競争試作でYF-22に敗北したものの、未だに根強いファンがいる(私含有)ノースロップYF-23。
この機体が世界初の二枚尾翼のみのステルス戦闘機だったので、チェックメイトも同じような設計思想と思ってしまいますが、かなり異なるのです。



YF-23の尾部を後方から。
上のチェックメイトに比べると、尾翼が大きく下側に傾いてるのに注意してください。
水平位置から約35度だけ持ち上げられた尾翼であり、構造的にはほぼ水平尾翼に近いものと考えていいでしょう。

対してチェックメイトの二枚しかない尾翼は水平位置からほぼ60度の強い角度で持ち上げられており、これはほぼF-22の垂直尾翼と同じ角度なのです。すなわちチェックメイトは「F-22の水平尾翼を外しちゃった機体」と言っていい構造となります。



■Photo Us Airforce

尾翼構造については、むしろこの常識的な機体、F-22に近いのがチェックメイトです。タヌキはアライグマに似てるけど、実際はイヌ科で遺伝子的には飼い犬に近い、みたいなものでしょうかね。

あまりに革新的な設計なので、次の発表会では「ゴメーン、前回は水平尾翼をつけ忘れちゃてましたあ、テヘ」みたいな修正が入る可能性もゼロでは無いと個人的には疑ってるのですが(笑)、もしこのまま行くなら、全く新しい時代の戦闘機と言っていいものですから、この辺りをちょっと詳しく見て行きましょう。

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