南極の向かい側にあるフエゴ島北部周辺には、かつて少数民族、セルクナム族(Selk'nam people)が居ました。
19世紀末に周囲で金鉱が発見され、ヨーロッパ系移民が入って来ると、セルクナムの虐殺と呼ばれる討伐が行われてほぼ絶滅された悲劇の人々です。当初は4000人前後が居たと見られていますが、最後の調査があった1930年には生存者は100人を切っており、すでにその独自文化は失われていたと思われます。その後の消息も判りません。

場所的にはマゼランの一行が巨人族(パタゴニアの語源になったパタゴンである)に会ったとされる海岸のやや南であり、地理的に南米の中でも特に孤立した地域ですから、20世紀に入るまでそういった人々が居た、というのは特に驚くにはあたらないでしょう。金鉱が見つかるまではあまりに寒くてヨーロッパ人も入植しませんでしたし。適応力の高い南米のげっ歯目デグーすら住んでないほど厳しい気候の一帯なのです。

このセルクナム人がかなり独特な文化を持っていた事を初めて知り、衝撃を受けたので、ここに紹介します。21世紀の日本人の想像力の貧弱さを痛感させられると思われるからです。

ただしこれらの写真の撮影は虐殺事件の後、ほぼ民族的に滅びかけていた1919〜23年にかけて行われており、ヨーロッパ人の影響を受けて一部が変化していたい可能性もあります。そもそも毛皮しか持って無かったはずなのに布製のマスクを被ってるようにも見えますしね。

ついにで撮影者は現地に入ったドイツ人神父さんらしいのですが、詳細は不明。約100年前の写真ですから、さすがに撮影者は50年以上前に永眠済み、著作権は問題なしと判断してここに掲載します。



服を着てるのではなく、体に色を塗ってます。以下の写真で見るように雪の中撮影ですから、かなり無茶です。どうも成人の儀式、イニシエーションらしいのですが、なんでこんなことをするのかは不明。

この南米最南端の一帯には五つの部族が居て、その一つがセルクナム人でした。その中で彼らとは別の部族の末裔の方がインタビューを受けた時、「あなたがたの言葉で神はなんと言うのですか」という質問に「私たちに神は無い。だからそんな言葉もない」と答えてますから、宗教的なものでは無い可能性が高いです。…純粋にファッション?



すごいよね。ちなみに黒く見える部分は実際は赤だったようです。ただし白い部分はシロ。
はい、誰もが思いつく感想は「ウルトラマンじゃん」ですね。



これは一面に花をつけてます。写真を拡大すると間違いなく花であることが確認できるのですが、雪景色の中になぜ花、あんな不毛地で、しかも冬に咲く花があるのか、という疑問が出て来ますが、なにせ記録が見つからないので詳細は不明です。



これも多分、黒い部分は赤らしいです。一連の写真の中でこれだけ明らかに季節が異なるんですが、理由は不明。なんか合成写真にも見えますから、背景はあまり信用できないかも。



再び雪景色に。ちなみに素っ裸ですが、よく見えないのでモザイク処理は無しで。
これもウルトラ怪獣ですよね。



これはどうも布のコートに見え、彼らが本来持っていた文化ではなく、ヨーロッパ人が持ち込んだものとの融合にも見えます。ちなみに後ろ側で、正面の写真は無し。小さな点は星を表す説があるんですが、これも今となってはよく判りませぬ。



どんどん突っ走ります。これも裸体を塗ったもの。…が、なぜそのポーズ。



俺達、雪の中で何やってるんだろ、と急に冷静になって頭抱えてるようにも見えるな、これ。



左端の人を見てだれもが思う事。…ケムール人だよね、これ。そして十字架はやっぱり西洋の影響じゃないかなあ。

成田亨さんはどこかでセルクナム人の写真を見ていたのか、それとも単なる偶然か。偶然にしては全体ただようウルトラ怪獣感がスゴイな、という事で今回はここまで。

ちなみに多少の情報が以下のチリの博物館サイトにありますので、興味のある人は見てください。

http://www.precolombino.cl/en/culturas-americanas/pueblos-originarios-de-chile/selk%C2%B4nam/

ついでに世界でもっとも美しく、そして怖いドキュメンタリーを造り続けるパトリシオ・グスマン監督(Patricio Guzmán Lozanes)の2015年の作品、「真珠のボタン(The Pearl Button)」の中でも紹介されています。グスマン監督の作品は最近は配信サービスでも見られるようになりましたから、興味のある人はどうぞ。ちなみに興味のない人でもグスマン監督作品は間違いなく見る価値があります。


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