■日常の非慣性空間

で、この非慣性空間は他にもいろいろあります。

例えば、列車やバスが発進、停車する時の車内。
ここで床に空き缶やボールなど、転がりやすいものを床に置くと、
何もしてないのに、勝手に転がり出します。
ホントに?と思った人はお客さんが少ないときに確かめてください(笑)。

なんの力も加えてないのに、置かれた物体が勝手に動きだした以上、
バスや電車が発進、減速する間、その内部は非慣性空間なのです。
加速、減速は加速度を伴いますから、加速度運動が発生するのは
ある意味、当然、とも言えますが。

もっとも缶やボールを使わなくても、発進、停車時に
車内で立っているだけでも、倒れそうになるくらいの
力を体感できますから、バスや列車は、
最も簡単に確認できる非慣性空間と言えるでしょう。

ただし、発進後、定速度運転に入ってしまうと、
これは推力と抵抗がつりあって力が0となった慣性空間へと移行します。
こうなると、床のものは動きませんし、
立っていても倒れたりする心配はありません。
(ただし上下振動の少ない車両に限るが…)



鉄道やバスは乗ると便利、というだけでなく、
慣性空間&非慣性空間の実験装置として
たいへん優れた存在となっております(笑)。

発進、減速時、カーブを曲がってる時、車内の空間には
力が加わって加速度が生じ、これは非慣性空間となります。
乗ってる人間も体に力がかかるのを感じ、つり革などに
掴まらないと倒れてしまうわけです。
(ただし空間といっても、車体に一切接触しないで空中浮遊ができる、
といったステキな人の場合は例外で、その力は基本的に車体を通じて伝わる)

対して、直線上を等速で走ってるときは慣性空間となり、
なんの力も感じなくなるわけです。



列車やバスではこれらの加速、減速は短時間で終わりますが、
その間、ずっと非慣性空間になっているわけです。
当然、長時間加速を続ける事がある宇宙探査船などの場合、
その非慣性空間の持続は極めて長い時間続きます。

さて、さらにもう一つ、加速度が生じ続ける運動を、
この記事では、すでに紹介していますね。
そう、円運動、つまり曲がる運動です。
円運動の場合、曲がる運動を維持するため、
常に円の中心方向に向けて力が物体に加わっています。
このため、等速で運動していても、これは加速度運動です。

星の引力、車が曲がる時のタイヤの摩擦力、
航空機の旋回なら主翼の揚力などの力が
加速度(運動の変化)を生みます。
この結果、円運動中の空間内部は常に非慣性空間となるのです。

これも曲がってる時にバスや列車の床に
缶やボールを置くとわかるでしょう(笑)。
そしてこれまた、カーブの時に車内で立っていると
体に力が加わるのを感じる事で確認できるはずです。

とりあえず、こういった日常的な空間の中でも、
ニュートン力学は崩壊する、というの覚えておいてください。
…意外なまでにニュートン力学は穴だらけなんですよ(笑)。

もっとも、コリオリの力、遠心力といった仮想の力、慣性力の考え方を
導入することで、そういった非慣性空間内でも力学的な計算は可能です。
ただし計算は可能でも、理論的な説明は極めて困難で、ほとんど無理でしょう。
なんで遠心力やコリオリの力があるの?と聞かれたら、
大人の計算の都合だよ、というくらいしか説明のしようがありません。
ここら辺りの限界を無視して、全てを遠心力とコリオリの力で
説明しようとするとエライ事になるので注意が要ります。

ただし、コリオリの力と遠心力は今回は取り上げませんので、ご容赦アレ…。
(ただし、今後の展開上、いつかは説明します。
これを理解しないとICBMは撃てないのです(笑))



要するに、等速直線運動以外の運動は
常に加速度が加わっている、加速度運動なわけです。
この結果、加速、減速時だけでなく、たとえ等速で運動していても、
宙返りやら旋回といった運動中の空間は全て非慣性空間です。

ただし、これは運動をしてる内部の空間の話なのに注意してください。
立ち止まって地上など外部の慣性空間から、
加速度運動をする物体を観測するだけなら
何もしてない観測者に何の力も加わらない以上、
普通にニュートン力学の慣性空間内の運動として扱えます。

この加速度運動を外から見るか、中から見るか、の違いは
極めて重要なので、注意してください。

例えば、どんなにバスが急発進しようが、F-16が急旋回しようが、
そこで力を感じるのはその中の空間に居る人だけです。
なんら力のかからない、外部の慣性空間から、それを見てる限り、
その物体の運動は通常のニュートン力学の法則に従います。
よって、通常のニュートン力学の範疇です。

ところが、宙返り中のF-16の中に入ると話は別です。
そこは力がかかり続ける空間であり、常に加速度が生じるため、
慣性の法則は成立せず、ニュートン閣下の法則の外にあります。
よって旋回中、宙返り中のF-16の機体の中で
ニュートン力学に基づくどんな実験をやっても成立しません。
…やれれば、の話ですが(笑)。



こうして見ると、世の中は非慣性空間だらけ、という感じですが(笑)、
実際そのとおりでして、少なくとも太陽系の内部で
完全な慣性空間(慣性系)を見つけるのは不可能でしょう。

なにせ太陽と木星、土星という重力の化け物がその系の中に複数あり、
さらに各惑星、衛星の上に立ってしまうと、
公転と自転で等速運動(自転)&加速度運動(公転)の
円運動をしてるわけですから、もうどうしようもありません。

となると、重力あるし大気まであって、かてて加えて自転公転までしてる
地球上はどう考えても慣性系ではありません。
じゃあ、今までのニュートン力学の説明全部ムダだったのか?
地球のバカバカ!…かというと、そうでもないのです(笑)。
そもそも、地球上で観測できない現象を元にニュートンが
その力学の法則を発見したといのは、何か変な話ですからね。

実は、ここでも規模、スケールの問題が出てきます。
最初に書いたように、そもそもニュートン力学の大前提、
時間と空間の絶対性、というのが間違っているため、
本来、ニュートンの力学の法則は成立しないはずのシロモノです。
が、人間が普通に生活する空間、質量、時間、速度、重力の中でなら、
なぜかニュートン力学はほぼ使用することが可能、
ただし理由は知らんけどね、という事でした。

同様に、本来は慣性空間ではない地球上も、
十分、擬似的には慣性空間として成立してしまうのです。
例えば人間のサイズだと自分を中心に半径5q(直径10q)前後までなら、
地球表面は極めて緩やかなカーブと成り、はほぼ直線と見なせます。
そして地球の自転は幸いにも、ほぼ等速回転ですから、
この直径10qの空間に関して言えば、等速直線運動の上、
と見なしてしても、ほぼ誤差の範疇で片付くのです。
ならば、これは慣性運動の空間になります。

さらに太陽の周りを運動する公転は半径1.5億キロ前後の楕円軌道という
盛大なものになりますから、これまた数時間の移動なら
ほぼ等速直線運動と見なしてしまえます。

よって、自転、公転の円運動の部分に関しては、
人間が見渡せる程度の長さ(数千m)、質量(数十トン程度)の範疇までなら、
慣性空間内での運動と見なすことができるのです。

逆に言えば、このエリアの外に出てしまう
巨大な規模の運動は非慣性空間の運動と見なさないと
誤差が大きすぎてニュートン力学は成立しません。
例の遠心力、コリオリの力といった、
いわゆる慣性の力、見せ掛けの力の概念を持ち込まないと
ニュートン力学で計算することはできないのです。

射程距離が40kmとかになる戦艦の主砲や、
数万q単位となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の攻撃、
さらには宇宙ロケットの打ち上げに、
コリオリの力や地球の遠心力が関わってくるのはこのためです。
当然、台風などの運動がコリオリの力に影響されるのも同じですね。
逆に言えば、昔の科学解説書によく載っていた
風呂の栓を抜いてできる水の渦をコリオリの力で説明する話は、
そもそも、無理があります(笑)。

が、それでも重力、空気抵抗の問題が残ります。
ところが重力の力は地面というステキにミラクルな存在が
これを打ち消してしまいます。

地上にモノを置くと、水平な場所なら、完全に静止しますよね。
そして、摩擦と空気抵抗がない場所で、これを押すとどこまでも滑って行きます。
(地球の表面に沿って動く以上、円運動となるが、
地球の重力が自動的にその加速度を無限に供給するので、
この運動から力や加速度が奪われることはない)
すなわち、地上の物体の運動では、
摩擦と空気抵抗さえ無ければ、慣性の法則がほぼ成立するのです。
ついでに、航空機なら揚力、艦船なら浮力が地面の代わりとなります。

問題は摩擦と空気抵抗ですが、両者は最初“無いものと見なして”計算し、
後からその分の効果を考える、という
例の最初は単純に、のルールで解決可能です。
数学的な処理で対応できてしまうのです。

このような条件により、
人間的なサイズの現象なら、ほぼニュートン力学は
地球上でも成立する、と考えて問題ありません。
いろいろ小細工はいりますが、なんとかなるのです(笑)。

まあ、とりあえず問題の多い論理体系であるニュートン力学ですが、
それでも、その実用性はとても高いものとなります。
この点は原子力とGPS装置などを別にした、ほとんどの現代の機械文明が
ニュートン力学によって構築されてることからも明らかでしょう。

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