■作用反作用の法則(第3法則)

さて、今回はニュートンの3法則の最後の砦、
作用反作用の法則を見ます。

さよう、はんさよう、と平がなで書くとなんだか
頭のすぐれないお侍さんの会話みたいですが、
単純で、現実的な法則ながら、意外とキチンと説明されてないのが、
この法則だと思われるので、ちょっと詳しく見て行きましょう。
この法則は、運動量、力、運動量の保存法則、
といったこれまで見てきたニュートン力学の集大成でもありますし。

現実的な応用、という面では、ロケットモーターやら
ジェットエンジンやらに適用されていますし、
私たちが地面の上で生活してられるのも、
地面が我々の体重(作用)を上向きに弾き返してる(反作用)からです。
まあ、いろいろと重要な意味を持つ法則と見ていいでしょう。

とりあえず、今回も最初にニュートン閣下による説明を見ておきませう。

■作用反作用の法則(第3法則)

全ての力学的な作用に対して、
等しい大きさの逆向きの作用(=反作用)が常に存在する。

すなわち影響を及ぼし合う物体間の相互作用は、
常に大きさが等しく、かつ反対方向を向く。

やや長い説明ですが、何かに力を加えると(=作用)、
必ず加えた方にも同じ大きさの力が正反対の向きに加わる(=反作用)
という事を言ってるだけです。

要するにモノを押したり、引っ張ったりする場合、
それと同じ力が必ず自分に跳ね返ってくる。
そして、その作用、反作用においては両者の力は、
常に正反対の向きであり、その量の大きさは等しい、という意味ですね。

例えば、摩擦の少ない氷の上で、横に居る相手を押す、というのを考えてください。
この時、押した相手はアレーと向こうに滑って行きますが、
押した自分も、その反動で反対方向に滑って行く事になるわけです。

これは相手を押したのと同じ大きさで逆向きの力が自分に加わった結果です。
そして両者が同じ体重で、同じ靴をはいてれば、
ほぼ同じ速度で滑って行く事になるでしょう。

例によって簡単な図にすると、こんな感じですね。
法則そのものはとても単純です。
が、これが意外に罠だらけなのだ、というのは後で見て行きましょう。



基本的には、球などの物体が壁にぶつかって1kg m/ssの力で壁を押したとき、
同時に壁からも逆向きの同じ大きさの力、-1kg m/ssで押し返されている、
というだけの話です。
そして相手が壁だろうが人だろうがオケラだろうが戦艦大和だろうが、
押した以上、このルールが常に成立する、
というのが作用反作用の法則となります。

ただし、上の図の説明は壁も球もコンクリートや鉄球、といった剛体で、
凹んだり、縮んだりしない、という暗黙の大前提があります。
さらに、卵にように割れる、逆に弾丸のように壁にめり込む、ってのもなし。

それらの運動を理解するには
仕事とエネルギーの考え方が必要になって来るからで、
ここでは単純なニュートン力学に話を絞るため、それらはなしです。
あくまで単純にブツかって、弾かれて、という話まで。

それでも、ぶつかった瞬間の熱エネルギーの損失は避けられないんですが、
まあ、とにかく今は話を単純化する、という事でご了承のほどを。
ここら辺り、本気で厳密にやると座標系の違いから
相対性理論の導入が必要になりますし…。

で、ここで注意したいのは、慣性の法則との違いです。
作用反作用の法則の場合、
同じ物体に+-同じ大きさの力が働いて打ち消し合うのではなく、
あくまで、接触した相手と同じ大きさの力で押し合うだけです。
自分の力は相手にかかるので、同じ場所で打ち消し合う事はありません。

つまり物体に働く力は常に生きたままですから、決して静止することなく
相手の力で弾き返されたり、こちらの力で弾き飛ばしたり、といった感じに、
やられたらやり返す仁義無き世界が展開します。
基本的に、静止したり、等速直線運動に入ったりはしないのです。

とりあえず、慣性の法則と、作用反作用の法則の違いを図にしてみると、
ざっとこんな感じでしょうかね。



ここまでが作用、反作用の法則の基本中の基本です。

でもって世の中の120%(夕撃旅団忍術課調べ)の力学の解説書は
ここで説明が終わります(笑)。

が、これだけでは、やや説明不足でしょう。
この法則は「力は瞬簡ごとに生じるものだ」というニュートン物理学の
基本中の基本をキチンと理解して無いと、
大混乱の元となる危険性があるのです。

例えば、法則の最初の文、

全ての力学的な作用に対して、
等しい大きさの逆向きの作用(=反作用)が常に存在する。


これを普通に考えて見ると、どうも変な話になります。

作用に対して、常に同じ力の大きさの反作用が存在するなら、
あらゆる物体は何かに接触したら、必ず押し返されてしまう、
といった意味にも読み取れてしまうからです。

例えば時速200qで快走する新幹線ひかり号が、
線路に紛れ込んだミーアキャットと衝突したとします。
上の法則をそのまま読むと、例え相手がミーアキャットでも、
同じ大きさの逆向きの力が生じる事になるはずです。

よって新幹線の先頭車両はミーアキャットに衝突し、弾き返され大脱線といった
悲劇か喜劇か判別に困る、といった事態になりかねないのです。
当然、相手がタヌキだろうがイリオモテ野良猫だろうが、
全く同じ事になるでしょう。
となると、新幹線は小動物に衝突すると弾き返されるのか。

いや、そんなバカな話があるか、と思うのが普通ですね。
そう、そんな事はありえません。

もう一つ、同じ力の大きさの反作用が常に存在する、
と考えるとおかしな話になってしまう例を見ておきます。

例えば、荷物を載せた台車を押す場合を考えます。
この時、上の法則の通りだと、
押したら常に同じ力で押し返される以上、
どれだけ押しても、常に同じ力で押し返されるんだから、
永遠に前進できないって事にならないのか、
という疑問が出てくるわけです。

といった感じに、この法則を普通に考えると、何かおかしいのです。

では、作用反作用の法則は正しくないのか。
いえ、基本的には正しいですし、キチンと現実世界でも成立します。

では、何がおかしいのか。
これは「常に」という時間の概念の捉え方の問題となります。

それは、前回まで散々苦労して見てきた二つの量、
一瞬の量である「力」と時間の経過に伴って蓄積される量である「運動量」、
この二つを理解したうえで、この法則を読み取る必要があるからです。

力はあくまで瞬間ごとに物体に作用する量なのです。
よって、この法則は常に瞬間ごとに考えていかないと理解できません。
さらにタチの悪い事に、通常のニュートン力学と
同じように考えて問題を解いてしまうと、普通に誤った結論に
導かれてしまうようになってます。

この点、ニュートン本人も説明を投げてしまってるため(笑)、
非常に判りにくくなってるので、
せっかくだから、キチンと見ておきましょう。
果たして、ミーアキャットは新幹線に勝てるのか。

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