■誘導抵抗の現実

もう少し具体的に誘導抵抗について見て置きましょう。
とりあえず、揚力が発生する以上、避けられない抵抗なのですが、
翼の形に工夫すると一定の削減効果がある事が知られています。
その辺りを見て行きましょう。

先に見たように、誘導抵抗は翼の全長に対する荷重に比例します。
つまり主翼が長い機体ほど、誘導抵抗は減ります。
が、実際の主翼では横幅だけでなく縦の長さもありますから、
これだけで主翼の形状は決められません。

それには荷重ではなく、長さ、翼面積などの条件付けが必要ですが、
その場合、アスペクト比が大きい機体が有利になる事が判っています。
その証明をやるのはかなり面倒なので、ここでは省略させてください(手抜き)。
とりあえず、そのアスペクト比の求め方ですが、以下の式で出ます。

アスペクト比=翼幅 × 翼幅 / 翼面積

翼幅は翼の左右の長さの事です。
この式からアスペクト比を大きくするには
翼幅はなるべく大きく、逆に翼面積は小さくすればいい事が判ります。
翼弦長、つまり縦方向の幅を小さくすれば面積は減りますから、
横に細長い主翼の方が誘導抵抗は減る、という事です。

ちなみに面積を面積で割り算してるので、アスペクト比の数字は無次元、
単位を持たない係数になるのに注意してください。 



アスペクト比を大きくするには横に長く、奥行きは短い翼を、という事ですから、
グライダーの主翼なんかはまさにそのものですね。
先に見たように低速では誘導抵抗の影響がかなり大きいので、
重力の位置エネルギーだけでゆっくり飛ぶグライダーにとっては
可能な限りこれを減らしたいのです。
このため十分に長い横幅を取ったアスペクト比の高い主翼となってます。



翼幅荷重、すなわち重量の重さも誘導抵抗には2乗で効いてきますので、
重量のある機体は、誘導抵抗的に、かなりキツイ事になります。
なので重い上に長距離を飛ばなくてはいけない
B-29のような戦略爆撃機もアスペクト比の大きい主翼を使用しています。
これで翼幅荷重を下げているのです。

この機体の場合、巡航速度も350q/h前後と結構速いのすが、
それでも十分な効果はあったと思います。



同じように、ベラボーな高速で飛ぶ(音速一歩手前まで加速する)現代のジェット旅客機でも、
アスペクト比の長い主翼が使われています。

でもって、21世紀に入った辺りからの旅客機には、
ウィングチップ(wingtip)、ウィングレット(winglet)と呼ばれる
主翼端に小さな板を付けてるものが多くなりました。
写真の機体でも矢印の先にこれが見られます。
これは翼端から主翼上面の低圧部に気流が回り込むのが問題ならば、
その気流を妨害してしまえというものです。

ただし実際の渦は主翼全体から出て、最終的に翼端部で合流するものなので、
これで防げるのはごく一部になってます。
それでもボーイング747クラスの大型機を使った試算では、3〜4%の燃料節約になる、とされ、
実際、これだけ多くの機体に付けられるところを見ると、一定の効果はあるんでしょう。


でもって誘導抵抗を減らすための主翼形状の工夫としては、楕円欲という手段もあります。
誘導抵抗の理論もドイツのプラントルが産み出したものなんですが、
(実際はいくつかの先行研究があったが注目されたのはプラントル以降だ)
その彼が理論上、最も誘導抵抗が少なくなる形状として示したのがこの楕円翼です。

翼端部に向けて渦が集まって行くのだから、
翼の端に向けて誘導抵抗の元になる渦の発生を減らせばいい、という事で
滑らかに翼の端を絞り込んで、左右で合わせると惰円形のように見える主翼となります。



イギリスの戦闘機、スピットファイアが採用した事でよく知られるのがこの楕円翼。
ただしスピットの場合、高速が命の戦闘機であり、それほど重くも無いので、
その効果がどの程度あったかは、やや微妙な所。

そもそも翼端にむけて主翼が絞り込まれて行けばいいので、
急角度の直線テーパー翼(付け根より翼端が短い幅となる台形翼)でも同じような効果はあります。
実際、同じ楕円翼を採用していたドイツのHe111爆撃機などは、
途中から生産性を優先して、直線テーパー翼にしてしまいました。

ただし楕円欲にはもう一つのメリットがあり、翼の途中から緩やかに翼端に向けて絞り込むため、
単純なテーパー翼より主翼中心部の面積を大きく取れるのです。
イギリス空軍からの要請で重武装の搭載場所に悩んでいたスピットの設計陣にとって、
脚も引き込めて機関銃もたくさん積むスペースが確保できる、というのが
楕円翼を採用した最大の理由だった可能性が高いでしょう。
さらに多少でも誘導抵抗が減るなら拾い物だ、といった感じだったと思われます。

といった辺りが、誘導抵抗と主翼側の工夫の話となります。


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