■流線形の誘惑

さて、そんなわけで、流体力学の基礎を見て来たわけですが、
航空機業界において、こういった知識が一気に花開くのは第一大戦後、
1920年代からでした。

そういった「流体力学に基づく」機体の最大のポイントは
機体形状における流線形の採用、でした。
当時、すでに時速200qを超え始めていた航空機にとって、
最大の敵は乱流による慣性抵抗(圧量抵抗)であり、
これを減らさないと、速度は出ないし、
抵抗がデカくて燃費はかさむし、でロクな事がありませんでした。

でもって、その慣性抵抗(圧量抵抗)がもっとも少ない形状として
当時から既によく知られていたのが、いわゆる流線形となります。




これですね。
前方からの流れを押しとどめない滑らかな先端部と、
境界層の剥離を発生させない、すなわち境界層内の粘性抵抗が大きくならないようにした
後端部まで滑らかに続くな円錐型を組み併せた形状です。

この形状が境界層の剥離が最も発生し難い形であり、
それすなわち、後部の乱流の発生が抑えられて、
最も慣性抵抗(圧量抵抗)が小さくなる形状となります。
1930年代以降の高速を必要とする航空機、軍用機や旅客機は、
全てこの形状が基本となってます。
ただし、音速を超える事になると話は別で、これはまた後述。

ちなみに、ここまでの記事では正面からの動圧、すなわち
物体が進行方向の流体にぶつかって前方から受ける圧力を無視しています。
これは慣性抵抗(圧量抵抗)は機体後部の低圧部に引っ張られる力ですが、
逆に言えば前方の高圧部に押される力でもあるので、
その抵抗値の中に、正面で受ける圧力抵抗もほぼ含まれるからです。
もっとも、機体の姿勢などによってはえらくややこしい話になるのですが、
この記事ではそこまでは考えません(手抜き)。

でもって、この流線型は、誰がいつ、どうやって発見したのかイマイチはっきりしないのですが、
数学的な計算である程度までは求められる形状なので、
世界中で同時多発的に発見された、という感じなのかもしれません。



ついでに本サイト主催者の卓越した画力によって、上の流線形の図に
翼とコクピットとプロペラを追加すると、あら不思議、
あっという間にプロペラ機の完成です。
実際、単発エンジンの高速プロペラ機の多くは流線形に近い、
胴体後部に向けて緩やかに絞り込まれる形状を持ちます。
特にエンジンも円形となる空冷エンジンン機はその特徴が顕著です。



その良い例の一つ、アメリカ海軍&海兵隊のF-4Uコルセア。
エンジン部のカウル(カバー)の先端に丸みを持たせ、
胴体の後部は緩やかに末端部に向けて絞り込まれて行く形状はまさに流線形。
尾翼が無いと飛べないので末端部にこれが付いてますが、それが無ければ、
ほぼ流線形の絞り込みとなってます。

本当はコクピットさえなければ、もっときれいな形に出来るんですが、こればかりは仕方ない。
昔から言われてるように、エンジンと操縦者さえなければ、
本当の理想の機体が造れるのに(笑)、というヤツですね。



ちなみに、日本のゼロ戦もそれに似た形状で、
エンジンカウル前部は滑らかに絞り込まれ、
胴体後部が末端部に向けて緩やかに絞り込まれて行くのが判るでしょうか。



さらに胴体ばかりではなく、全周視界型のコクピットのキャノピー(天蓋)なども、
基本的には流線形です。機体の上に出っ張ったここは意外に空気抵抗源になるからで、
本来なら先に見たF4Uのようなハイバック、コクピット後部が胴体に繋がる
形状の方が慣性抵抗(圧力抵抗)は小さくて済むのです。

いわゆる水滴型風防というタイプですが、これが視界の良さと抵抗の少なさを
両立させた、理想的な形状となります。

ただし完全な流線形ではなく、最前部は防弾ガラスを入れたり、視界を歪ませないようにするため、
やや直線的な形状になってしまってますが、
それでも後部の滑らかに絞り込まれる形状に注目してください。



この辺りの事情は、現在の超音速ジェット機でも変わりませぬ。
ステルス性の問題がなければ(コクピットは意外に大きなレーダー反応源となる)
この形状が理想型なのは全く同じです。


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